バイオハザード | ナノ






――ヘレナ。
両親を知らない私にとって、たった一人の家族。とても大切でとても愛おしい姉さん。
ずっと昔から自分の事なんて二の次で、いつだって私の事を優先してくれた。

ご飯に私の好きな物があれば笑顔で分けてくれた。宿題が終わらないと嘆けば、自分も宿題もあるというのに丁寧に教えてくれた。テレビのリモコンだって、いつだって私に握らせてくれていたわ。

優しくて強くて頼りになる姉さん。大好き。この世の誰よりも姉さんの事が好き。
なのにあんな酷い事を言って御免なさい。
姉さんは私を想ってくれていたからあんな事をしたのに。アイツに負わされた怪我を心配してくれた姉さんの手を、私は容赦なく振り払った。
怒りっぽい、なんて姉さんの事、馬鹿に出来ないよね。

きっと今のこの状況は、神様が私に下した罰なんだ。
暗くて寒くて、周りには誰もいない。一人ぼっち。私の大嫌いな孤独。
子どもの頃に夜の暗闇が怖くて、何度も姉さんに泣き付いた。真夜中に叩き起こされたって言うのに、姉さんは文句の一つも言わなかったよね。
怒りっぽいなんて嘘。姉さんは私が知る中で、誰よりも優しい人だった。

ねぇ。やっぱりもう一度姉さんに会いたいよ。
そして謝りたい。大好きな姉さんと喧嘩別れなんて嫌。絶対に嫌。


「――デボラ!」

……嘘?
信じられない思いだった。そしてそれ以上に嬉しかった。
ありがとう。ありがとう、神様。もう一度姉さんに会えた。昔のように姉さんが私の事を迎えに来てくれた。
抱きしめてくれた姉さんの腕は温かくて安心する。本当に昔と同じだ。

「逃げましょう、デボラ。絶対に助かるから」

違う、違うの。私はもう助からない。
自分の身体の事だもの。自分が一番よく分かってる。
ただ、姉さんに謝れればそれでいいの。

「ヘレ……ごめ……」
「大丈夫。何も心配する必要は無いわ」

身体の機能が私の意志に従ってくれない。
たった一言、謝れればそれで良いのに。後は姉さんが無事に生き延びてくれれば。
けれど姉さんは絶対に私を放そうとしなかった。これも昔と同じ。何にも変わってない。

「邪魔者は俺が引き受ける。その子を放すなよ」

……あれ?
姉さんの隣に、私達の隣に誰かいる?
もしかして男の人?堅物で男の気なんて全く無かった姉さんが……。

「ありがとう、レオン」

レオン。その名を呼ぶ姉さんの声は信頼に満ちていてそれで……少し甘い。
そんな姉さんの声を私は知らない。あの姉さんがそんな声で話しかける男の人なんて、私は知らない。
力を振り絞って視線を上げれば、微かに見えたのは背の高い金髪の男の人。
はっきりとは分からないけれど、中々に男前な顔をしているようだ。
ねぇ、聞いてないよ。こんなところまで一緒に連れて来るぐらい信頼してる男の人がいるなんて。

――でも、ちょっと安心した。
姉さんはいつだって私に構ってばかりで、自分の事なんて後回しだから。
ずっと昔から、ずっと一人で私の事を守り続けてくれたから。
姉さんにも、こんな風に信頼できる人がいるんだって。

ねぇ、姉さん。
私はもう駄目だけれど、姉さんは絶対に幸せになってね。
私の幸せが姉さんにとっての幸せだったように、姉さんの幸せが私にとっての幸せなんだから。
私と違ってちゃんと良い男を見つけて、子どもとか作って、家族一緒に過ごして。
とりあえず今のところの最有力候補は“レオン”かな。
とっても良い人みたいだし、逃がしちゃ駄目よ?姉さんは凄く美人だし、きっと……――。

「デボラ、しっかりするのよ。もう少しだからね」
「……ヘレ、ナ」

頭がぼーっとする。視界が霞む。全身が何だか熱い。
もうここまでみたい。ごめんね、折角助けに来てくれたのに。私は、一緒に行けない。
だから、だから最後に。

「この前は……ごめん、なさい」
「デボラ?」
「……だいすき」

あぁ、良かった。言いたい事、ちゃんと言えた。
驚く姉さんの顔。すぐ近くにある筈なのに、ぼやけてちゃんと見えない。
奇妙な感覚が全身を走り抜ける。まるで体の中で炎が燃え上がってるみたい。そして……――




My sister




――ヘレナ。
いつまでも、どこにいても、貴女が幸せになれる未来を祈ってる。
さようなら。今まで本当にありがとう。
愛してる。大好きな、私のたった一人の姉さん。










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