FAIRY TAIL | ナノ






それはいつも通りの、穏やかな朝の事。


エルザが目覚めた時、既に日は昇った後だった。
隅々まで整理整頓が行き届いた寝室には、眩しい朝日と共に幸せが満ちているようだ。
開いた窓からは、朝早くから街を行きかう人々の喧騒が聞こえて来る。

――少し寝過してしまったかな。
覚めたばかりの寝ぼけ眼のまま、時間を確認する為にいつも枕元に置いてある筈の時計を手探りで探す。
しかしエルザが時計を探し当てる前に、微かな笑いを含んだ声が彼女の耳元で囁いた。

「ようやくお目覚めか?エルザ」
「ジェ、ジェラール……」

いつからそこにいたのだろうか、ベッドの淵に腰掛けた最愛の夫が自分の顔を覗き込んでいた。
驚いて言葉を詰まらせるエルザを見てジェラールは愉快気に喉を鳴らす。

「休日だからといって寝坊は感心しないな」
「う、煩い。誰のせいで夜更かししたと思ってるんだ」
「おいおい。エルザにだって非はあるぞ?俺だって疲れていたのに、エルザが色っぽいから、つい」
「なっ!お、お前は朝から何を言って……!」
「ははは!悪かったよ、俺が悪かったって!」

意地の悪い笑みを浮かべたジェラールの表情と言葉に、昨夜の情事の記憶が甦る。
もう数えられない程の回数を重ねているというのに彼との行為に未だに慣れずにいるエルザにはたまらなく気恥ずかしかった。
力任せに枕をぶん投げるも軽くかわされてしまった。

「子ども達はもう起きてるよ。綺麗なエルザお母さんをお待ちかねだ」

最後の最後まで聞いているこちらが気恥ずかしくなるようなセリフを並べて、ジェラールは寝室を出て行った。



「ママ、ねぼー!」

着替えを済ませリビングになると、愛しい我が子のはしゃぐ声がエルザを出迎えた。
既にジェラールと二人の子どもは席に着き、簡単な朝食の並べられたテーブルを前にエルザを待っている。
下の娘に与える為のミルクを作っているジェラールの前に腰掛け、ねぼーねぼーと騒ぐ息子を軽い拳骨で沈めてみせる。

「いてっ」
「静かにしないか。朝ご飯がこぼれてしまうだろう?」
「はーい」
「エルザ。ミルクを頼むよ」

ジェラールが作ってくれたミルクを受け取ると、それをまだ言葉も喋れない赤子の娘に飲ませてやる。
待ってましたと言わんばかりに哺乳瓶を咥える娘の姿にエルザが頬を緩ませていると、横で息子が声を張り上げるのが聞こえた。

「ねー!今日どっか遊びにいこーよ!」
「ん?あぁ、そうだな。折角こんなに晴れてるんだ。久し振りに皆で外出でもしようか」

息子の言葉にパンを頬張りながら答える。
やったー!と息子が喜んで叫べば、口に含んでいたベーコンが勢いよく空中へ噴射した。

「こら!話すか食べるかどっちかにしろ!ジェラール、お前もだ!」

揃ってエルザに叱られた青髪の親子は、しゅんと肩を落として黙々と残った朝食を口に運ぶ。
しかし数分後には性懲りもなく食べ物を口に含んだまま、外出の予定を大声で話し合う二人にエルザは呆れながらも、確かな幸せを噛みしめていた。




*********




目を覚ました時、最初に見えたのは見慣れた自分の部屋の景色だった。
カーテンが閉められた部屋は薄暗く、音と言えば閉じた窓越しに微かに聞える小鳥のさえずりぐらいだろうか。

「………」

目覚めた後、暫くそのままの姿勢でエルザは天井を見上げていた。
まだ十分に覚醒していない思考は、あの幸せに満ちた夢に囚われている。
そう、幸せだった。笑顔の彼と共にあったあの幻想は、自分にとって確かに幸せなものだった。

「――夢だったのか」

口にした短い言葉はエルザ自身も驚く程、寂しげな響きを持っていた。
現実には、彼が朝起こしに来てくれる事など有り得ない。傍にいてくれるどころか、彼が今どこで何をしているのかさえエルザは知らない。

目尻から溢れ出した涙は、封じていた筈の彼への想いも一緒に流しているようだった。




幸せな虚構




どうせ叶わないなら、あんな夢は見たくなかった









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