FAIRY TAIL | ナノ
「……これは」
机の上に幾つもの山を生み出すそれらに青髪の吸血鬼――もとい、ジェラールは息を呑んだ。
「全部エルザのか?」
「あ、あぁ。少し貰いすぎてしまったかな」
恥ずかしげに頬を染めて何度も頷くエルザ。艶やかな髪から覗く猫耳がひょこひょこと揺れる。
10月31日。世間一般でハロウィンとして知られる今日、馬鹿騒ぎが好きな我がクラスではハロウィンにちなんで、仮装パーティーが開かれていた。
野暮用で開始時刻に間に合わなかったジェラールは、皆より少し遅れての参加となったのだが――
「これ、全部お前一人で食べるのか」
「なっ、馬鹿者!誰がそんな食い意地を張ってるか!」
「じゃあこのクッキー貰うぞ」
「あぁっ!」
一番低い山の上に置かれていたクッキーに手を伸ばすと、途端に横から上がる可愛らしい悲鳴。
見てみれば涙を帯びながらもキッとこちらを睨むブラウンと目が合う。ジェラールは短く笑うと、大人しくクッキーを元の位置に戻した。山が少し揺れる。
「太らないよう気を付けろよ」
「……ん」
「それにしても良くかき集めたもんだな」
ちらりと周囲に視線を回す。
いつもの元気はどこへやら。何が怖いのか、小さくなって床に蹲り、ひたすら震えているナツやグレイを見つけた。
「クラスの皆が気持ちよく分けてくれたからな」
胸を張って誇らしげに答える彼女は、恐らく本気でそう――ナツ達が進んで菓子を献上したのだと――思っているのだろう。
鼻を啜りながら財布の中を覗いているエルフマンには後で飯でも奢るとして。今は自分の身を案じた方が良さそうだ。
「さぁ、ジェラール!」
瞳を輝かせたエルザが大きく息を吸う。さぁほら、勝負どころだ。
「トリック・オア――」
「トリックオアトリート!」
まさに今口にしようとした言葉を先に言われ、エルザは意表を突かれて固まってしまう。
目の前ではジェラールがしてやった、とばかりにニヤニヤと笑っていた。
「トリー……え?」
状況が掴めないとばかりに目を瞬かせるエルザに、片手を差し出して微笑む。
「お菓子くれないのか?」
「あ……そ、そうだったな」
甘い物を前にした時のエルザの野獣が如き迫力は知っている。
他の連中はその迫力に押されて――それでなくとも、エルザに菓子を要求するなどという自殺まがいの行為、思いつきもしなかったのだろう。
だが俺は違う。ジェラールは突然の事にたじろぐエルザに、尚も迫った。
「ほら、たくさんあるじゃないか」
「う、む。じゃあ……どれか好きなのを選べ」
恨みがましそうな声と眼光が少し怖い。けどここからだ、ここから。
「じゃあ好きなのを貰おうか」
「くっ!」
「んー、じゃあ決めた」
じゃあ、というのは正しくない。
貰うお菓子は最初から決めていた。寧ろそれこそが肝心なのだ。
「エルザ」
名前を呼べば振り向いてくれる君。その柔らかそうな唇めがけて――
「なん――んむぅ!?」
「……ははっ」
悪戯成功
(きゃーっ!ジェラールってば大胆!)
(ジュビアも……ジュビアもグレイ様にあんな)
(しねーからな。つか、無理)
[prev:next]
[top」