FAIRY TAIL | ナノ






「おい……何だ、あれは」

静寂を取り戻した通路に呆然としたジェラールの声が響いた。
その横では、エルザも絶句した様子で目の前の光景を凝視している。

通路からのっそりと姿を現したのは、ジェラール達の倍は背丈があろうかという巨人だった。
肌の色こそ死人の様に真白であるがその胴周りは大木のように太い。醜く歪んだ顔を覆うマスクは拘束具にも見える。
何より異様なのはその右腕だ。巨人の右肘から先には明らかに人工的な物と思われる、巨大な金属のアタッチメントが取り付けられている。その先端では不気味に光る鉄の爪がガシャガシャと耳障りな音を立てて、まるで生き物の様に蠢いていた。

「なぁ、エルザ。あれもBOWなのか?」
「……それ以外に説明が付かんだろう」

返事と共に聞こえたのは銃のマガジンを装填する音だった。
見ればエルザが構えた銃を不気味な巨人に向けている。巨人と対峙する彼女の表情に最早動揺はない。

「あれぐらいで狼狽えるな。過去の報告では全長何十メートルもある、まさに怪獣の様に巨大なBOWとの接触も報告されているんだ」
「おいおい。アメコミの実写版じゃないんだぞ」

エルザと同じように銃を構えながら冗談を垂れるジェラールも既に落ち着きを取り戻していた。
彼等はプロだ。いかなる極限の状況下でも冷静さを失う事は許されない。取り乱せば次に死ぬのはその者だと、数々の実戦で嫌と言う程、思い知っている。
しかし経験則だけでは対処しきれないのがBOWという存在なのだ。

『ウ……オォ』

向けられた殺気に気付いたのだろうか、巨人の顔がジェラール達の方を振り返った。
瞳の見えない暗い眼窟がエルザを、そしてジェラールを見つめる。途端、元々醜い巨人の顔がより一層歪みを増した。

『オオオオオオォォォォォォォォォォッッッ!!!』

咆哮。両腕を振りかざし、天高く雄たけびを上げる巨人を見てジェラールは悟った。こいつは――やばい。

「逃げるぞエルザ!!」
「ジェラール!?」

踵を返し、早々に離脱を決意する。床に溜まった水を撥ね飛ばしながら全力で走り出した。
逃げる獲物達を見て、巨人も咆哮を上げながら通路を駆け出した。一歩踏み出す度に床が割け、大地が揺れる。その巨体からは考えられない反則的な俊敏性。絶望的なプレッシャーを以て巨人は二人を追いかけ始めた。

「ジェラール……!無理だ、私達の足では逃げ切れん!」
「死ぬ気で走れ!」

エルザの言う通り、自分達とあの巨人では元来の身体能力が圧倒的にかけ離れている。一歩一歩の歩幅もあちらの方が上だし、そもそもあの巨人は疲労など感じないだろう。まともに逃げた所で一分と持たない。
しかしジェラールとて考えもなしに闇雲に逃げている訳では無かった。
この方角の先に使い古された倉庫があった筈だ。あそこなら身を隠せるだろうし、あの巨人相手にも勝機を見出せるだろう。
僅かな希望を頼りにジェラールは悲鳴を上げる脚に鞭を打ち、一心に走り続けた。

「ジェラール!」

エルザの鋭い声に振り向けば、もうすぐそこまで迫る巨人の鬼の如き形相が間近で見えた。
寸前で曲がり角へ飛び込んでかわせば勢い余った巨人が壁に激突する。ズズン、と重い衝撃に臓器が揺らされ気持ち悪い。

「立てエルザ!もう少しだ!」

息も絶え絶えのエルザを励まし、手を貸して立ち上がるのを手伝う。
壁にのめり込んだ事で僅かの間だけ動きを止めた巨人だが、既に態勢を立て直している。
再び咆哮が上がる前に二人は揺れる通路を駆け出した。

「……!見えた!」

狭い通路の終わり、その先に記憶にあった目的の建物のシルエットが見えた。
だが次の瞬間、予想だにしなかった最悪の光景がジェラールの目に飛び込んで来た。

「そん、な」

道は本当にそこで終わっていた。
途切れた通路の先には何もない。底の見えない断崖絶壁が横たわり、行く手を遮っている。
目的の倉庫は、その断崖を跨いだ先にあった。

「来るぞ、ジェラール!」

横でエルザが走りながら叫ぶのが聞こえる。後ろを振り向けば、そこには金属の右腕を振りかざす巨人が迫っていた。










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