FAIRY TAIL | ナノ






街は相変わらず物騒な音と気配に支配されていた。
銃声、爆音、大きな破壊音に恐怖と絶望を帯びた悲鳴がそこかしこから聞こえてくる。
最もジェラールにとってはこの殺伐とした世界こそ慣れ親しんだものであるが。

「で、どこへ向かってるんだ?」

数歩先を歩くエルザの背中へ問いかけた。
彼女は頻繁に端末を確認しては、入り組んだ複雑な地形を縫うように進んでいる。
一見迷いなく歩いているように見えるが、その細い背中には緊張が見て取れた。

「予定されている合流ポイントはいくつかある」

振り向きもせず、ぶっきら棒な口調でエルザが答えた。

「一番近いのはここから5キロ程先にある広場だ。そこまで行ければあとは……」

そこまで行けばどうなるのか、結局ジェラールは知る事が出来なかった。
歩く二人以外に人気のなかった通りに異常な程大きい絶叫が響き渡り、エルザの声を掻き消したのだ。
続いて獣の唸り声にも似た怒声と、何かを引きずるような物音。

「そこに隠れろ!」

危険の接近を察したエルザが素早く指示を飛ばす。
言われるまでもなく、ジェラールは近くに転倒していた軍用車の陰に身を潜ませていた。
そっと顔を出して周囲の様子を探ると、視界で動くものがあった。

「あれは……」

視界に入ってきたのは防寒服に身を包んだ数人の男だ。マスクで顔を隠しているが、ジェラールにはその身なりと武装に見覚えがある。
険しい表情のジェラールを一瞥し、エルザが小声で尋ねた。

「知り合いか」
「知り合いと呼べるかな。同じ部隊の連中だ。だけど、どう見ても正気じゃないな。やり過ごした方が無難だ」
「いや、待て」

エルザがはっと息を呑む音が聞こえた。
彼等に囲まれる形で一人の女性が地面に蹲っている。男達の持つ銃の口は、一様にその女性へ突きつけられていた。
先程の甲高い悲鳴はあの女性のものと思っていいだろう。

「………ッ」
「止せ」

エルザの手が銃に伸びるのを見て、ジェラールが鋭く言い放つ。

「もう手遅れだ」

ジェラールの言う通りだった。
男のうちの一人が何の躊躇いもなく、銃のトリガーを引絞る。
一瞬の銃声の後、地面に伏した女性の体はそれから二度と動かなかった。

「……くそっ」

救いのない惨劇を目の当たりにしたエルザが悔しそうに呻くのを聞いて、ジェラールは意表を突かれた。
てっきりエルザの事を冷静沈着、目的の為なら手段を問わない冷血人だと思っていたのだが、そのイメージが一瞬のうちに崩れ落ちる。

「……優しいところもあるんだな」
「どういう意味だ」

ギロリ、とこちらを射抜く眼光の鋭さに、ジェラールは柄にもなく焦りを覚える。
冷血人ではないが、かと言ってただ優しいだけの甘ちゃんでもないらしい。

「悪い。深い意味はないんだ。ただ、もっと……冷たいイメージだったから」
「随分はっきり言ってくれるな」

失言を特に気にする素振りも見せず、エルザは淡々と言葉を返した。
獲物を仕留めたジュアヴォ達がその場から消えたのを確認し、物陰からゆっくりと這い出す。
ただ一つ残された女性の遺体に数秒ほど目を留めた後、ぽつりと吐き出すように声を出した。

「行こう」

エルザの声は相変わらず冷えているが、遺体から逸らした瞳に微かな熱が浮かんでいるのをジェラールは確かに見た。









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