FAIRY TAIL | ナノ






一体いつの間に?

突然現れたその女を、ジェラールは注意深く観察する。
この辺りに住む人間ではない。それにしては身なりが清潔過ぎるし、肌の血色も良く飢えでやつれている様子もない。
陳腐な表現ではあるが、絶世の美女と表現しても良い、非常に端麗な容姿の持ち主だった。
だがそれよりもジェラールの目を引いたのは、女がその手に持つ物騒な鉄の塊だ。
それに気付いた瞬間、無意識にジェラールの手が腰のホルスターに伸びる。

「ジェラール・フェルナンデスだな」

名前を知られている事にはさほど驚かない。
腕利きの傭兵として自分の存在が戦場各地で噂されている事は知っている。寧ろその方が仕事の依頼が入り易いだろうと名を言い触らしているのは他ならぬ彼自身だ。
この時点でジェラールは何となくではあるが、この見知らぬ女の目的を悟った。

(仕事の依頼か。女とは珍しいが)

そうと分かれば友好に接する事にこした事は無い。
依頼料を少しでも多くもらう為にビジネスの相手に取り入るのは大切な事だ。

「あぁ。その通りだ」
「貴様、それを打ったのか?」

それ、と言いながら女が指し示したのはジェラールが持つ空の注射器。
限りなく高圧的な物言いにジェラールは眉を吊り上げた。
依頼の相談、と判断するのはやや早急過ぎたかもしれない。彼女の纏う威圧的な空気は交渉が目的の者のそれとは思えない。

「早く答えんか」
「……あぁ。打ったよ。君も欲しいなら下にいる東洋人の女に言うと良い」

ジェラールがそう答えるのと同時に、彼の背後でシュウウゥ、と何かが焦げる様な音がした。
振り返って見れば先程自分が仕留めた傭兵の死体が燃え始めているではないか。
しかも普通の燃え方ではない。まるで内部から火が起こっているかの様な不自然な燃え方。人体自然発火現象という言葉が脳裏を過ぎる。

「俺はあまりお勧めしないがな」

気味の悪い光景に動揺を覚えつつ冗談交じりに言う。しかし女はジェラールの言葉など聞いていなかった。
この国ではまず見かける事のない、スマートフォンにも似た小型の端末を操作しながら何やらブツブツと呟いている。

「情報通りだ。やはり彼には抗体があるのか」

表情こそ険しい物だが、女の声はどこか弾んでいるように聞こえる。
それよりも聞き捨てならない台詞が聞こえたのは気の所為か。

「誰に何があるって?」
「貴様が世界を救う鍵なのだ。ジェラール」

きっぱりと答えた女の表情は至って大真面目な物だった。









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