俺と元は親友と言うには近すぎて、だけれども同性だからそれ以上にはなりえない不思議な関係だった。
あるいは元が自分への感情に敏感だったならばこの身動きが取れない関係からは脱することができたかもしれない。

個人的な意見だが、同性愛は難しい。

男女の恋愛が簡単なわけではないが、結婚と言う形で結ばれるというのは紙切れ一枚とは言えないぐらい重たく、重要なものだと思う。
それだけで関係性には『家族』という繋がりが出来るし、なにより世間的にも家族として扱われる。
ところが同性だとそうはいかない。
どんなに愛し合ったってその関係はいつまでたっても平行線。
よしんば周りの理解に恵まれたって、お互いの気持ち意外に何も証明することができない関係性に不安にならないことなんて俺には無理だ。

そう、無理なんだ。

なのに元を想う気持ちだけが日毎に積もってしまう。
小さく息を吐いて、松永に視線を送る。
何も考えずに軽い言葉を吐くこいつが大嫌いだ。

そして、少し羨ましかった。

「松永」

「ん〜?」

「わざわざ学校に寝に来るくらいなら来ない方がいいんじゃないか?」

「…ふふっ」

「何を笑っている」

「多分、そう。真添の言ってることは正しいけど、一応好きだって言ってるんだから自分に会うためにわざわざ来てるんだと思わない?」

だから、なんだそれは。
今度こそ俺は視界から奴を完全に排除した。

「真添はさぁ、なぁんにも見えてないよね」

なんだ?今日はやけによく喋るな。
かといって相手にする気はまったく…

「4組の松永、あ、俺の親戚で兄弟とかじゃないんだけど…族っつーの?入ってるんだよねぇ今日珍しく学校来てるんだけど」

「………」

「俺興味ないから聞いてやんないけど、田村の事気になるなら聞いてみれば?」

「…元はチームなんか、」

「火の無いとこに煙は立たないけどねぇ、ま、これは俺の優しさだと思ってよ真添。聞いて損することは無いだろう?でも知らずに手遅れになる事もある。これは俺の持論だけど、決めるのは真添自身さ」

「…………」

「どうしたのさマジマジ見ちゃって?もしかして俺に惚れちゃった?」

「いや、それは無いが…」

意外だな、と。
何を思ってそんな事を教えてくれるのか定かではないが、言ってることは正論だ。
松永には似合わない言葉だが、その言葉は確かに俺の背中を押していた。

「ありがとう」

ぽかん、と真の抜けた表情をした松永が不思議そうに俺を見る。

「なんか…」

変なの。
そうぽつりとつぶやくと松永はまた柔らかく笑って今度こそ本当に机に突っ伏した。
俺はまた窓の外へ視線を向けたので勿論松永がどんな表情をしていたかなんて気にもしていなかった。






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