俺は、不思議とこの瞬間の元様に畏怖すら覚える。
まるで知らない人間のような、不思議な感覚に眩暈すら感じてしまう。
普段はあんなに優しく、無邪気な元様は、北区の玄武という言葉がまるで似合わないのだ。
「そういえば、雷帝のトップは新しいマシンを買ったんだって」
愛らしい顔立ちも、少し低めの身長も、普通にしていれば"バイク"と言う言葉すら似合わないように見えるのだ。
「そのようですね、今日が初出しなるのではないでしょうか?」
「何を買ったか知らないけど、バイク屋が言うにはとにかく速さを重視したらしいよ」
「…はあ」
「金持ちのお坊ちゃまの考えだよね」
酷く柔らかい笑みだった。
きっと俺しかしらない、元様でさえしらない、冷たい笑み。
「はい」
誰よりもマシンに愛情を注ぐ、そして、マシンに愛された走り屋。
彼はマシンを愛さない者には冷血だ。
「引きずり降ろしてあげなきゃね」
「はい」
彼はマシンより俺を愛してくれているのだろうか?
いいや。
多くを望んではダメだ。
俺だって多くは与えられないんだから。
それでも、元様。
貴方を想う気持ちは募る一方なんです。
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