甘ったるい。
感想はそんだけだったのに吐いた言葉は「おいしい」だった。
ボロボロ落ちるパイ生地も、横からはみ出す林檎もただただめんどくさいだけなのにな。
香織は食べかけのパイを皿に置くと、少し目を伏せてから俺を見た。
「元気、ないよね」
「…!!!まさかっ」
力無く笑う香織は、俺が知ってる『彼女』じゃなかった。
「ずぅっと…何の事考えてるの?」
「…………っ」
「上の空で、無理矢理笑うし、ねぇ?なんなの」
「ごめ…」
「言ってくれなきゃわかんないじゃ無い!!」
「…ぁ」
溢れ出した涙はついにテーブルに水玉を作ったけれど、俺は見ていただけだった。
謝るべきだったのかも知れない。
ごめんって。
そして適当にフォローして、抱きしめて仲直りして…
後は…
後は…
「……………」
「もういい」
香織のあきらめたみたいな声が衝撃だった。
けど、もっと衝撃だったのはこんな事になったって、ピクリとも動かないでいる俺自身だった。
「もう、いいよ」
そうやって、香織が出ていくまで何の言葉も出せないでいた。
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