「…っ、はぁ」

萌黄君は珍しくため息を吐いてみせた。

「炎、下片付いた?ワリィけどそこの領収書の束を分けてくんねぇ?」

「構わないけど…」

少し休んだら、なんて出かかった言葉を飲み込んで俺は領収書の束を掴んだ。
元々この店のオーナーは萌黄君のお兄さんで、亡くなってからは萌黄君があとを継いでいる。

俺が学生の時は厨房も経理もすべて一人でしていたんだからその苦労は計り知れないものだろう。

今はギリギリ合格点を頂いた俺が厨房を預かっている。

…少しでも負担を減らせれば、と。

「分けたよ、出納帳書いとくから萌黄君お風呂先にいいよ」

「いや、やるから置いてていい。炎明日も早いんだから先に…」

「スクラップブックどこだっけ?会計ソフトに入力するのは俺じゃ力になれないからそこまでは俺がする」

萌黄君は緩く頭を振ったが俺が聞く耳をもたないのが分かったのか、ひとつ息をついて風呂場へ消えて行ってしまった。

店の事に関しては俺だって余り口だしはしたくない。

萌黄君だってチームの事は俺に口出ししないし、
お互い1番近い人間だから踏み込んじゃいけない領域を弁えてる。

でも恋人が疲れててもそんな事言える程大人じゃないし。




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