「主が寝込んでるってどーゆー事よ?」
まだ、朝日が眩しい午前8時、私は珍しく店にいた。
理由は簡単、うちの総長様からメールがきたのだ。
主の変わりに店に出てほしい、と。
「ユエ、声が大きい
…正しくは寝てる、んだ」
「寝てる?」
「そう、ちょっと今不安定でね…寝たまま起きて来ないんだ、風邪とかではないんだけど熱もひかなくて」
私は店内に目をやる。
荒れた様子は、ないわね。
こないだみたいに無理をさせたわけじゃ無いみたいだし…『不安定』か。
「店番は構わないんだけどね、主なんかあったの?」
不安定って体調って意味じゃないんでしょ?
私が知る限りじゃ萌ちゃんはそんなに弱い人間じゃないわ。
それだけの事があった、と考えるのが妥当かしら…
「…情けない話、俺もお手上げなんだよ。嫌な夢を見たらしいんだけど…あんなに酷いとどうしていいかわかんなくて」
「夢、ね…」
厄介だわね。
形無いものからヒトを守るのは難しい。
不安は不安をよび、不安に身を絡め捕られてしまえば人は身動きがとれない。
自分との、戦い。
何が萌ちゃんをそんなに不安にさせるの?
貴方は揺るぎ無いくらい強い精神を持っているのに。
「とにかく寝てるのを起こすのも悪いし、悪いけどユエ手伝ってくれないか?」
―――――…そうか。
“炎”だ。
強い精神も、あの人の強さを維持しているすべては炎が支えているモノ。
強さは、強くなれば強くなるほど脆くなる。
おそらく、萌ちゃんは…
「ユエ?」
「…、手伝うわよ。言っとくけど萌ちゃんの為なんだからねん?」
「うん、ありがとう」
何だろう。
胸がざらつく。
嫌な、予感がする。
「あぁ、それと萌ちゃんのパソコン借りてもいいかしらん?」
「萌黄君の?そりゃいいんだけど…ロックかかってるよ?」
なんでかしらね。
主が寝込んだから?
女の勘?
「パスは知ってるの、もしもの為に。萌ちゃんが寝てる間他のチームが動いたら困るでしょう?今はバカ双子もいないんだしぃ」
何か、起こる気がする。
「ユエ、パス知ってるの?俺も教えてもらってないのにな」
「全部じゃないにしても少しはねぇ?信用されてるからかしらん」
私が、守らなくちゃ。
ねぇ?
我が愛しき眠り姫。
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