崩れるみたいにしゃがみ込んで、落ちた携帯を拾う事もできなかった。

「…あーぁ」

こんなに、血だらけなのに…しかもこんな時間に呼び戻して何やってんだろ。

でも、

少しだけ、気分悪くなくなったかも。

立ち上がる気力はないけどな。
でも、炎が迎えに来てくれるらしいし。

少しだけ、目を
つむって…







********










『萌黄、お帰り。どう?ちゃんと家庭教師やれてる?』

『柘榴が勝手に引き受けたんじゃないか!テキトーにやってるよ』

幸せそうに柘榴が笑う。
毎日の、他愛もない風景。

『炎君だっけ?彼、身長高いね』

『ああ?でかいっつーかあれじゃ大木だよ』

『萌黄の横に並ぶとさらにでっかく見えちゃうもんね』

『うるさい!』

『いや、お似合いだよ』

柘榴は酷く嬉しそうだった。
まるで俺らがどうなるかわかってたみたいに。

『萌黄もいつかお嫁にいったりするかなぁ?』

『いかねーだろ、嫁には』

『…、そっか』

嬉しいような、
寂しいような
そんな笑い方をして柘榴は二度とこちらをむかなかった。




柘榴は、
あの時何を思ったろうか?








*******



「――――ぎ、くん!」

温かい。
それに、声が…

「――えぎくん!」

聞こえる。
炎の、声が。

「萌黄君!」

「……、っ」

「よかった、倒れてるのかと思った」

炎だ。

目の前に、炎がいる。
温かい
生身の、炎が。

「わ!萌黄君?」

思いっきり抱き着いたのに炎は、転びもしない。
ムカつくのに嬉しかった。
温かい。
生きてる。
抱きしめてくれてる。

炎、炎、炎。

「どうしたの萌黄君、なにか…された?」

されてない。
お前以外の他人にされるわけねーだろ?
いいから、黙れよ。

「血だらけだし、怪我とかない?」

ないって。
お願いだから炎。
黙って、

「萌黄君?」

「いいから、黙って俺を抱きしめろ」

言わすな、バカ。

きつくきつく、痛みを伴う程きつく抱きしめろ。
生きてるんだって、感じれるくらいに。

「………」

「……」



そんなに、抱きしめたら苦しいじゃねーか。




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