嫌な夢だ。


汗だくの体でシーツの中でもがいて起きた。
暗闇の中で光るディスプレイが夜の11時だと教えてくれる。

「…っくそ」

嫌な夢。
こんな日に限って。

俺は無駄に広いベッドを見渡して溜息をついた。
タイミングってのは怖いもんで、いつだって“なんでこんな時に”ってタイミングで偶然が重なりやがる。

そう、
例えば今日。

こんな嫌な夢見たっていつもなら大丈夫なんだ。
炎を起こして、抱き合って、それでも不安ならセックスして…
不安も恐怖も全部なくなるのに。

今日は無理だ。
炎は明日の朝にしか帰ってこない。
四地区の集まりがあってるから…今日は帰れない。

「外に…空気を……」

気持ち悪い。
たかが夢、されど夢。

夢ってのは強い暗示効果を持っていると思う。
夢(ウソ)、だとわかっていても自分の中で直接見た恐怖は胸に巣くい不安を産む。
時としてそれは現実の痛みを越してしまう。

根拠のない不安は、取り除くのが難しい。

「…っ、く」

頭が痛い。
気持ち悪い。
吐く?
イヤ、違う。

これは不安だ。

炎を無くすことへの。
恐怖と不安。

「えん…」

握りしめた携帯を開いて、閉めた。

呼んではダメだ。
心配性なあいつは、帰ってこれなくても帰って来てしまうから。
俺以外の一切をたやすく切ってしまうから。

「外へ、行かなきゃ」

少しでも炎の近くへ。
ここは、炎が居ないことばっかりしらしめられるから。

ふらつく足を叱咤しながら俺は店の外へでた。
ケータイだけポケットに捩込んで、ワイシャツに黒のズボンと寝巻のままだが別に構いはしないだろう。
誰に会うわけでもないんだし…。

「…は、ぁ」

つくづく嫌な日だ。
上がる体温に、熱があることを思い出した。
あぁ、もしかしたらそのせいであんな夢を見たのかもしれない。

気持ち悪い。
炎が、いない。
怖い。

死んでた。
炎が、死んでた。
夢だけど、この恐怖は、夢じゃない。

柘榴みたいに、炎も俺を置いて死んで行くのか…?
今度は、ヒトリダ。

「…っ、…は」

苦しい。
気持ち悪い。

心臓の中が真っ黒に塗り潰されていく様な感覚だ。
息ができない。
縋りたいのに、真っ黒に塗り潰されていく。




「オニーサン、気持ち悪いの?」




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