「おかえり、ユエ」

扉を開けたら、いつも通りの笑顔が私を迎えてくれた。
優しい珈琲の香りと萌ちゃんの白いシャツが、今日は私だけの為に用意されたもの。

「ただいま萌ちゃん、もう起きても平気なの?」

「熱は大分下がったな…痛みは見ての通り」

引きずるような歩き方をしてみせる主に若干眉をしかめたが、あえて触れずに私はカウンターに着いた。

「まったく、そんな格好で出歩くなんて人に見つかったらどうするんだ」

「ふふ、誰も気付かないわよ主は心配性ねん」

主は珈琲を私に差し出すと隣の席に腰掛ける。
ゆったりした動作に珈琲の香りも揺らぐ。

「心配ぐらいさせてくれないか?」

とろけるような瞳が私を甘やかして誘惑した。
伸びてくる主の腕を視界におさめながら私は苦笑以外の抵抗をしらない。

「なんせうちのお姫様は俺のだと言うくせに俺に隠れて喧嘩ばっかりのおてんば姫だからな」

ぎゅうって強く抱きしめられて、私は笑う。
大好きな大好きな主のぬくもり。
優しさとか安心とか嬉しさとか生娘のようなトキメキさえも全部与えてくれる華奢な腕。

私だけの窮屈で温かい檻。




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