ユエを送り届けても俺は家に帰らなかった。
「待ってろって言ったのに……」
「待ってるじゃん」
「家で待っとけっての」
こんな山の中で待っとく馬鹿がいるかっての。
「ここに来ると思ったから」
家からさほど遠くない小さな山の中腹にある墓地は春日居家のものだ。
両親の墓とは別に柘榴の墓が立っている。
「萌黄君」
「んー」
「今はまだ無理だけど」
炎は優しい手つきで俺の手をとる。
左手の薬指にそっと触れて。
「俺もいつかこの世界から引退する」
「……」
「その時は一緒に引退して、俺と結婚しよう」
切なくなる。
俺は大人だからいいけど、若いこいつらが引退して現実見ていかなきゃいけないのかと思うと。
時代は移り変わってるんだな、柘榴。
「結婚、ね」
そんな年になっちまったんだねぇ俺も。
聞こえたー?
俺家族の前でプロポーズうけちゃってるよ。
バージンロードなんて今更歩けないわ(笑
「………」
炎は俺の答を待っている。
真剣だけど穏やかな目。
なんら命を紡ぐことの無い俺ら。
報われない関係…
だと、俺は思わない。
愛し合っているだけで報われてる。
産めはしないが養子って手もあるし。
男と男だからって何かあるかと言われれば俺は無いと答える。
それが俺の愛の在り方。
きっと、生涯。
「いいよ、炎。もっとお前だけの物にしろよ」
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