「萌黄君……?」
俺の手を握った炎の手は、微かに震えていた。
決して人通りの少なくないこの通りは、俺らだけを切り離してやけに賑やかだ。
「あっちの頭の内布、俺に対する私怨で南に流れて来たらしい」
「………」
「俺がアイツの恋人を盗っちゃたみたいでぇ?」
「何言って…!!もしかしてその恋人が柘榴さんってんじゃ…!?」
「らしいな」
「まさか!有り得な…!!」
切り離された空間が、一瞬で戻る。
炎があんまり煩いから口塞いでやったら、回りから嫌悪の悲鳴。
まぁ、炎といると大分小さく見えるが、俺だって男にしか見えねーし。
「動くよ、俺」
「萌黄君!!やるなら俺が潰すから」
「何?腰痛の心配でもしてくれてんの?大丈夫だって!まだそんな年じゃねーよ?」
「萌黄君!!!」
炎は、昔から俺が喧嘩の場に出るのを極端に嫌う。
理由は大なり小なりあるんだろーが、それでも、
“萌黄、愛してるよ”
「炎、愛してる」
“世界で二番目に”
「俺にはこれから先、お前だけだから」
だから、過去の大事な人間の為に動かせてくれ。
どんなにくだらない挑発でも許せないものがあるんだ。
prev next