俺は倒れた男の紐だけを解き、大通りに向かって歩きだす。
こんなの炎に見せらんねぇし。

「恋人、か」

コイツは言っていた、俺が内布の恋人を盗ったのだと…
そしてその恋人の名が『柘榴』。

笑えネェ話。

柘榴は内布なんか見てなかった。
ましてや恋人だなんて馬鹿げた話だっての。

“萌黄、よく聞け”

今も覚えてる、柘榴の声。
忘れたと自分に言い聞かせていたのに。

“暴力は何も解決しない”

そうかもな。

“お前の手は愛しい人を抱く為にあるだけで、他人を傷付ける為にあるんじゃない”

柘榴、お前は優しい。
優しいから―…

“勿論、俺の手も”

―…死んだんだ。




「萌黄君!」

急に肩を掴まれて俺は後ろを振り返った。
どうやら考えに没頭していて炎の呼びかけに気付かなかったらしい。

「どうしたの、ぼーっとしちゃって」

「柘榴組」

「え?…ぁあ、何かつかめた?」

「俺が潰すから」

突然切り出したものだから炎も俺の真意がつかめずただ眉を寄せる。

「何言って…?潰すのはいいけど萌黄君が動くほどの理由が?」

「春日居 柘榴(かすがい ざくろ)」

「…………」

お前だってよく知っているだろう?
名字なら、特に。




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