『看板に、sanctuaryの札でもかけておこうか?』


炎がそういって苦笑したのはつい最近の事だ。
sanctuaryなんて冗談じゃない、彼等は罪を犯してなんかいないし、此処に神はいない。

「副長、俺、どうしたらっ」
「同性愛にSEX以外を求めるな、傷付くだけだ」
「だけどぉ…っ」

店にいるのは俺とこいつ、最近チームに入ったクリの二人きり。
名前は栗山、あだ名はクリ。
喧嘩はまぁまぁ強い方、明るくって厭味のない性格はチームの誰からも好かれていると言っていいだろう。

「副長達は?副長達だって同性愛じゃん!お互いにSEX以外求めない!?」

そんな彼は今年18という青春のど真ん中にいるらしくて、恋にお悩み中だ。
勿論、そっち方面。
まぁ俺にノーマルな恋愛聞かれてもサッパリだし。

「…確実なもんはそんくらいだ」
「うそだ!副長と総長見てたら同性だって愛があるんだ!って俺思ったんだもん!」
「そりゃどーも」

だけど、それは俺と炎の話だ。
一般的に言って同性愛というものに『永遠』を求めるのは難しいと思う。
最近じゃ異性愛だってそんなものはなさそうだがな。
ようはお互いの問題だろう。

「こんな話は彼氏としろよ、よっぽど建設的だ」
「彼氏に!?したよ!俺とは別に女の子の彼女がいるの!?って!そしたらなんて言ったと思います!?」
「『テメェじゃ、ガキ産めねぇじゃん』だろ」
「うわぁぁぁんっ」
「あぁ、もう」

手がつけられない。

俺みたいに男しか性的対象にならないホモより、バイというのはタチが悪い。
察するに、クリの彼氏は完璧にそのタチが悪いバイ。
本命の彼女と遊び用のクリ、彼は上手く使い分けていたらしい。

「泣くなよ、クリ」
「うわぁぁっ、ぁ、だって!だって!俺にはアイツだけ、アイツが…アイツしか…っ!」
「困った、な」

身を焦がすような恋なんてしたことがない。
ましてや、フラれた経験も―‥

「まだいたの、クリ?」

それは俺が溜息を吐いたのとほぼ同時、泣きじゃくるクリの声を遮って穏やかに響いた。

「……炎」
「ただいま、萌黄君」
「ぞ、総長ー!!」

俺は片手をひらひらと挙げて炎にお帰りの合図を送る、いや、正しくは『どうにかしてくれよコイツ』の合図かもしれない。

「クリ、萌黄君困ってる」
「ずいまぜんっ、すっ、でもっおれぇ!!頼れる人なんて、ほかにぃい、いない、じ」
「ハイハイみっともないから泣かないの」
「うわぁぁっん」
「まったく、そんなんだからフラれるんだよ」
「‥――っ炎!!」
「萌黄君は黙ってて、クリ、此処で泣いたって彼氏には聞こえないよ?それともナニ?泣いて諦める?」

俺は二度目の溜息。
ちょっと待て、なんだその女子高生みたいな会話は。

「諦め…たくなぃ」
「なら奪って来い」
「……だって」
「諦めないなら奪って来い」
「俺に赤ちゃんは…産めない」
「鬱陶しい!赤ちゃんより良いもんを与えてやればいいだろう」

ナンダソレ。
思って、笑ってしまった。
炎のは理屈じゃないんだ、だから、理解するには難しい。

「炎、上行ってろ」
「萌黄君!」
「そんなに責めてやるなよ、悩むってのは若い内の貴重な経験だ。そして得た答えは正否問わず本人の財産だ」
「………っ」
「クリ、仕方ないんだ諦めるられなくても、でも、どうしようもないんだ」
「………副長」
「一方通行の想いは実らない」
「……!!」
「時間をかけて受け入れな、そしたら次に進むんだ」
「…ぅ、っく」
「お前はさっき俺と炎の事を言ってたな?俺と炎は確かに『永遠』を望んでる」
「っ、くぅ、ふ」
「だけどもそれは、永遠に俺を炎に縛り付けるって事だ。法的な家族を成すことも、子供を作ることも、誰かに祝福されることさえも全部奪うって事だ」
「それは…っ」
「全部捨てて全部奪って、俺は炎だけ選んだ」
「っふく、ちょ」
「そんだけの覚悟をそいつと持てるか?それだけのものをそいつに強いれるか?」

炎は上には行かなかったけど、もう口は挟まなかった。
ただ、静かに俺を見て。

「ありがとう、ございました」

クリは一つ涙を流して椅子から立ち上がった。
その顔に迷いはない。

「まだ、諦めそうにはないっすけど、イロイロ考えて見ます」
「役に立てなくてわりぃな」
「いえ、本当にありがとうございました、でも副長、俺…」

クリは俺と炎を見て深々と頭を下げる、伝った涙が床を濡らす。
綺麗な、涙だと思った。

「俺、一つだけわかりました」
「うん?」
「不幸のどん底みたいな気分だったんです、今まで、多分」
「……ん」
「副長は、不幸のどん底に立ってても総長が居れば笑えるんだなぁって、わかりました」
「…!!」
「俺も、そんな恋を見つけます」

クリは勢いよく外へ飛び出すと通りでまた頭を一回下げた。

「不幸のどん底でも、か」
「地獄の果てでも、だよね?萌黄君」

炎に後ろから抱き込まれて急に切なくなった。
俺は炎から全部奪った。
代わりに与えてやれるのは俺だけ、なんて割に合わないことか。

「勿論、だろ」

今更、逃がしてはやれないけど。
だって俺は、一生、お前から全てを奪う覚悟をしてるんだから。





「地獄の果てでも一緒だろ」



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