狙いを定めて、
決して外さない様に―‥



「萌黄君、聞いてるの?」
「聞いてるよ」
「またそんな適当な事ばっかり言って!もうそろそろ出ないと間に合わないってば」
「んー」
「ちょっと!萌黄君ネクタイ忘れてる!そこ置いて…あれ?御祝儀どこ置いたっけ!?」

炎が忙しなく動き回る姿に小さな笑みを一つこぼす。
でっかい図体してんのに、そーいうとこが可愛らしいってゆーか。

今日はお世話になってる業者さんの息子の結婚式。
俺らは二人揃って招待を受けたわけだが、炎は初めての結婚式にそりゃあもうはしゃぎまくってるわけ。
まぁ、それを隠そうと頑張って空回ってるんだけど。

「あった!萌黄君もう出なくちゃ、出れる?」
「…ああ」
「よかった、車、前に回すから荷物を―‥」
「荷物、持って来いよ?俺が運転するから」
「え、あ、うん」

そんなに慌ててる奴に運転なんかさせられるか、馬鹿。

「あ、萌黄君!」
「今度はなんだ」
「なんてゆーか、その」
「……?」

時間、ないんだろ?
何を一人で照れてやがる。

「結婚式、って、緊張するんだけど…なんか、その、っ」
「はぁ?何言ってんの?お前が結婚するわけじゃねぇだろ?親族でもあるまいし」

本気で遅れるぞ?
って目で促せば、炎はハッとした表情で俺の手を引く。
その後は何も言わなかったから俺も大して気にしなかった。
なんか結婚式すごい楽しみにしてるみたいだし。

考えれば、哀れな話だ。

俺といる限り炎は結婚式なんて挙げられない。
勿論、海外へ行けば式自体は挙げられるだろうが、そんなものを俺は望まない。
そんな俺に炎はそんなものを無理強いもしない。

可哀相な事に、親族、交友関係のほとんどを切って俺を選んだ炎には結婚式の招待自体がない。
(和雅達もあの分じゃ結婚は無理だろうしな)

そう考えればなんだか息が詰まって言葉なんか出てきやしない。
多分、杞憂に終わるものだろうとわかってはいるが。







結局、俺らはギリギリに受付を済まして中へ。
式は至って普通の、よくいえば落ち着いた式だった。
と、思う。
実際はあまり式に集中していなかったのでわからない。
原因は勿論ウチの連れ。
式の間中、キラキラとした瞳でキョロキョロと辺りを見渡して今にも動き出しそうだった為、俺はハラハラしっぱなしだったわけだ。

まったく。
いつもは無駄に大人ぶって見せる癖に、どうしてこうも無防備になっちまうかな。

「ウエディングドレス、綺麗だったねぇ!」
「ああ」
「手紙も感動したし!」
「んー」
「お料理美味しかったし」
「だな」
「幸せそうに笑ってた」
「……」

そう、だな。
彼等を阻むもんなんかねぇもん、そりゃあ祝福するさ。
俺らとは違うんだ。

人も疎らな駐車場で野郎が二人、俺らは誰が見たって恋人同士には程遠い。

「もう大満足!」

はしゃぐ炎。
冷める俺。

この温度差が歳の差だろうか?
ふと考えて自嘲した。
仕方がない、俺は女にはなってやれないんだから。

「これで結婚式はもういいね」
「――――――‥ぇ」
「だから、結婚式、もう満足したね、って言ったの」
「結婚式、挙げたいんじゃ…」

炎は一瞬キョトンとしたけど、すぐに苦笑すると俺の手を握る。

「挙げたいの?」
「まさか」
「俺も、いいや」

お前はなんでそんなにもおっとりと微笑むのだろうか。
総てを許すように、全てを諭すように、それはまるで愛に似た拷問みたいに。

「炎、お前…」
「結婚式には憧れてた、と、思ってた」
「……?」
「でも、今日見て気付いたよ」

柔らかい雰囲気と温和な声。
炎が出す独特の雰囲気は優しさに満ちているはずなのに、たまにその瞳にドキリとする。

そう、それはまるで突き付けられた銃口に等しい存在感。

睨まれているわけでもなんでもない、ただ、優しく笑んでいる瞳に対して。
俺は何故こんなにも追い詰め駆り立てられるのだろうか。



答えは、一つ。

理解はしている、
が、
認めたくない。


理不尽に微笑むその唇が、ゆっくりと引き金を引いていく。
依然、銃口は俺を捕らえたまま。

「俺が萌黄君に望むのはあんな華やかなものじゃない」

目を、逸らせ。
聞いてはイケナイ。

「どこにでも転がっているような幸せな毎日」

早く耳を閉じて、
車へ逃げ込め。

「萌黄君が隣にいるだけの毎日が欲しいんだから」
「――――――‥」
「式は挙げないけど、婚約届けも出せないけど、萌黄君、俺と一生一緒に居てくれる?」
「―――――ばか」
「ふふ、顔真っ赤」


だって、こいつの言葉は


「愛してる」




確実に俺を撃ち抜く。






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