「あー、くそ電源落ちる」
「は?」

三郎が兵助に携帯を突きつける。『充電して下さい』文字はすぐに消えて画面は真っ暗になった。

久し振りに学部学科の違う5人の休みが重なると分かってから30分もしないで決定したドライブ。今日、そのドライブは滞りなく実行された。毎回じゃんけんで勝った順に車を走らせるのだが、珍しく一番に勝ち抜けた僕が今ハンドルを握っている。
いつもは自分の車を出すことを極度に嫌がる三郎でも、この5人で遊びに行くときは今までの渋り方が嘘のように簡単に愛車を明け渡す。全員が免許を持っているにも拘わらず、車を所有しているのが三郎だけというのも理由の一つだろうが、結局のところみんなで遊びに行くのが好きというのが本音だろう。僕の免許だって、ほとんどこのドライブのために取ったようなものだ。
そんな時に、後部座席で何やらカチカチと終始携帯をいじり続けていた三郎の携帯の充電が切れた。すかさず左右の2人が冷やかしに入る。

「お前意味もなく携帯使いすぎなんだよ」
「この現代っ子かぶれめ」
「うっさいお前ら!」

電源が切れてしまったらもう市販の充電器では太刀打ちできない。舌打ちして三郎は携帯を鞄にしまった。
僕の隣、助手席には次の運転手である兵助が座っている。後ろの3人がぎゃいぎゃいと騒いでいる間にも、我関せずと外を眺めていた兵助の肩を三郎が叩く。大きな目がぎょろりと三郎を見た。

「兵助」
「なに」
「なんかあったらお前に電話するわ。番号」
「えー何で俺……」


言いながらも兵助は鞄の中から携帯を引っ張り出して三郎に渡した。
三郎の左手に座る八左ヱ門がにこにこと自分を指す。


「俺の番号は?」
「いらん」
「あ、俺のも教えてあげようか?」
「だからいらねーって!」


八左ヱ門の善意、勘右衛門の悪意あるノリをバッサリ切り捨て、三郎は兵助の携帯でプロフィール画面を呼び出した。

「なんで兵助だけなんだよ!」
「差別だ!!」
「雷蔵と八左ヱ門はかけても出ねえし、勘右衛門は俺からの電話だと面倒とか言ってとろうともしねえし、兵助しかいないだろうが」
「ははは」

三郎の言葉に乾いた笑いしか出ない。出る気はあるんだけどなあ。

「兵助番号何?」

八左ヱ門が身を乗り出して兵助に聞く。窓枠に頬杖をついたまま、兵助が答えた。

「覚えてない。携帯見て」
「自分のケー番って覚えてないもんだよなあ。家電はさすがに言えるけど」
「あ、僕自分の番号言えるよ」

僕が後ろを振り返ると、三郎が悲痛な叫び声を上げる。

「ちょっと雷蔵前見て!!」
「大丈夫だって。あはは」

こんな平日の真っ昼間、車なんてそう多くは無いのに、三郎は叫ぶ。「止めて!」

仕方なく僕が前を向くと、三郎は盛大なため息をついて座席に沈み込んだ。本当に、心配性。

「……雷蔵の番号は覚えやすいんだよ」
「そうそう。三郎が決めてくれてさ」

下四桁が自分で選べると知って、何にしようか悩みに悩んでいた僕を見かねた三郎が一緒に来てくれて、決めてくれた番号。そんな逸話が込められたもの、いくら僕でも忘れない。

「そんな特徴あったっけ」

兵助が頬杖から頭を外して、首を傾げる。

「下四桁が2828なんだ」
「にやにや?」
「違う!」

僕より先に三郎が大きな声を出した。
あ、と勘右衛門が人差し指を立てる。

「ふわふわ?」
「当たり!」

今度は僕が大きな声で言ってクラクションを鳴らした。「雷蔵!」三郎が叫ぶ。

「へえ、なんか雷蔵っぽい」
「まあ、不破だし」
「そうじゃなくて、雰囲気が。ふわふわしてる」

横目で見ると兵助はにこにこと僕を見ていた。

「たしかに!いい番号!」
「でしょう!」
「しかも、あれ、今日2月8日じゃん。雷蔵の日!」
「お、ほんとだ。じゃあ今日は雷蔵がずっと運転してて」
「逆だって普通!」

今日が休みで良かった。この5人でいると、全ての小さな幸せが大きな幸福に変わるのだから、すごいと思う。
僕は改めてハンドルを握り直した。



5人の笑い声と笑顔を乗せて。





20110222/不破の日記念として





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -