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扇風機


カチッ。ブ、ウーーーン、カチッ。カチッ。ブ、ウーーーーン、カチッ。カチッ。ブ、ウーーー

「うっせえ!」
イライライライラ。リヴァイは貧乏ゆすりをして、パソコンから目をあげた。その顔にはブルーライト対策にと眼鏡がかけられている。
「さっきから扇風機つけたり消したりつけたり消したり…なにがしてえんだてめえは!」
そこらのヤンキーよりもはるかに怖い睨みに、しかし弟のエレンはヘラーーっと笑っただけだ。
「兄さん構ってくれないからさー」
やっとこっち向いたー、と。首の回っている扇風機の風に合わせて体を右へ左へと動かしながらちょっと休憩したらー?と。別に兄を気遣ってのことではない。
リヴァイはあからさまにため息をついて、画面に目を戻す。忙しいのだ、こんな弟に構っている暇がないくらい。こんな、と言ってはかわいそうか。ここ最近忙しかったからずっと構ってやれなくて、それをちゃんと理解したのか仕事の邪魔をすることはなかった。昨日までは。
まあ確かに、そろそろエレンが痺れを切らす頃かなとは思っていた。が、仕事の邪魔をされるのはいい気がしない。いや、嫌だ。
無言でパソコンに向き直った兄に、エレンは悲しそうな顔をする。多分本人は気付いていないが、それはそれは悲しそうにするのだ。眉は八の字になって、目は美しい金色から寂しい黄色へと変わる。頭に耳がついていたなら垂れてしまっているだろうな、と。
エレンは口を尖らせて、扇風機ついて語りはじめる。この扇風機はね、余計な性能とか搭載してないんだよ、除湿とか上下の首振りとかイオンを発生させるとかがないの、すっごくシンプルなんだよ。
リヴァイは生返事をすることもなく、ただ目の前の仕事に集中する。
オレたちはシンプルじゃないねえ、とエレンは皮肉っぽい口調で云う。
「だって兄弟ってだけで近親相姦になっちゃうし、同性だから世間から白い目で見られるし。生産性もない。あるのは2人の間の好きって感情だけ。あ、それ考えたら逆にシンプルかな?その2人の間にある感情がごたごたしている人たちよりも」
ウーーーー…と扇風機は静かに唸り続ける。エレンも乾いた声で喋り続ける。リヴァイはそれを黙って右から左へと受け流そうとする。
「なんの生産性がなくても、でも女だからってそれで、それで…。でもオレの中の感情は?どろどろに溢れるこれをどうしたらいい?お前女、オレ男、セックスしましょ、じゃないんだ。お前のことが好き、セックスしたい、なんだよなあ…。でもそれじゃ、だめなのかな。好きと性欲って繋がってないのかなあ。あーーーーもう」
わっかんね、と床にゴロンと横になる。今までエレンに当たっていた風がもろにリヴァイに当たって、その髪をさらさらと揺らした。
これでリヴァイも、何かあったな、と気づかない訳もない。でも、何も言わない。言いたいのなら、エレンが自分から言うだろうから。
指のスライドする音、タップする音、キーボードを打つ音。ウーーーー…という扇風機の音。エレンの呼吸の音。時計の針の音。




130704 りーく
あまりにも中途半端なので今度加筆するかも