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don't look back


ああ、やってしまった、と、そう、後悔はやはり先にはできないものなのだ。途中までは、愉悦感があった。けれど、今はもうそんなものなくて、ただの後悔。後悔というものでも語りきれないような、そんな感情。悲しいとかそんなもんじゃない。
でも、と自分に言い訳をする。俺はただ、エレンが愛おしかったのだ。否、愛おしい。今でも。だから、エレンが、「あなたの事が好きで、熱いものが体の中にぐるぐる巡っていて、サナギになった気がするんです。どこか切ったら、感情ばかりが溢れてくる気がするんです」と言ったときに、自分の行為を止められなかったのだ。
最初はちょっと、試しに手首を切ってみただけだった。でもなんだか、そこから溢れる血液が赤で、これが感情だと思った。思って、結果的に俺はエレンを殺めた。
と、ここまで考えてリヴァイは自己嫌悪、いままでの比ではないもの、に陥る。
俺は、エレンを、殺めた。この手で。巨人を何度も削ぎ、殺してきたこの身で。どうしようもない事実なのだ。彼を失ってしまった事は。人類の希望が失われた、とか、そんな次元の話ではない。リヴァイの、その体のなかにあった、エレンという居心地のいい安らかな激しい存在を、リヴァイは失ったのである。
まだその温かさを遺す血溜りに手をそっと沈めてみる。横のエレンを見て、その金色が自主的に動く事も自分をうつすこともないのだときつく思い知る。そうして、血溜りに沈めて、沈めて、でも底がない。あれ、と思うとエレンも沈んでいる、血溜りに。ああなんだ、この中に行けばいいのか。そしたら彼は、エレンは許してくれるだろうか、この失態を。もしこの向こうにエレンが居てくれるなら、まず最初に許しを請おう。すまなかったと、愛していると。
リヴァイはエレンの襟足を引っつかんで、共に冷めかかった血溜りに沈んでいった。



130703 りーく