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ごめんねママ


今夜も双子の片割れは自分の部屋に来るだろう。
エレンがそう思ってベッドに潜り込んだちょうどその時、部屋の扉が開いた。電気を消して真っ暗な部屋に、同じく真っ暗な廊下から彼が姿を現す。
「エレン」
部屋の鍵を閉めて、囁く彼を見つめた。
「寒い?」
そんなこと、答えは聞かなくたって分かってるくせに。でもエレンは、求められる答えを口にする。
「さむい。エレン、来て」
被った布団をばさりと跳ね除けて言えば、仕方ないなあなんて嘘臭さ100%振り切って120%以上な台詞を吐いてエレンは近寄ってきた。近くで見ると彼の口角は上がっていて、月光に照らされてきらりと瞳が銀色に輝いた。エレンはその光を目に焼き付け、離さぬように目を瞑る。閉ざされた瞳に被さる瞼に、彼の唇が触れた。柔らかなそれの感覚と温かい吐息を感じて、エレンは彼の首に腕を回す。そのまま、重心を後ろに移す。そうしてやれば、エレンは自分の上に乗っかっていて満足そうに目を細めるのだ。
密やかな夜が始まる。

は、は、と荒い息が二人分、部屋の中に響く。エレンは声を抑えようと口元に当てた手を一度はずした。その瞬間を狙って、エレンの中に埋め込んだエレンが弱いところを突く。がつん、とエレンが衝撃で頭をベッドの柵にぶつけた。
「アぁっ、ッ、あ、こえっ、声もれちゃ、っらやめ、ほんとっ、ぅあっ、ばか、えれ、」
やめろと頭を振るが、自分を見下ろすエレンは笑うだけで止めることはしない。
「ッは、ね、もしばれちゃったらっ…ん、どうしよう、ね」
楽しそうに笑うエレンを見上げながら、エレンはぶるりと身震いした。体は火照っている筈なのに、ひどく寒かった。
エレンは誤魔化すように彼に手を伸ばし、キスをせがむ。エレンの顔のすぐ横に手をついていた彼は、やはり楽しそうに笑ってエレンに口付けた。でもそれはエレンの求めるキスではなくて、ふわりと触れるか触れないかの口付け。もっともっと、とせがむように、エレンはエレンの首に腕を回して自ら顔を寄せた。彼はエレンの唇ををぺろりと舐めてから、噛み付くようにキスをした。
淫らな水音が、しんと静まり返った家の一室で響き渡る。しばらくエレンの鼻にかかった声と水音、それから二人の熱だけが全てを支配していた。
そんな中、ぎしりと廊下の床が軋む音が二人の鼓膜を震わせた。二人はハッと身を固くする。あんなに火照っていた身体の熱は一気に冷めて、二人で扉の外の音に耳をそばだてた。思わず息さえも潜めてしまって、しかし何故だかエレンは自分の中に入り込んだエレンを妙に意識してしまって無意識に締め付ける。
「まじ、バカっ…なに考えてんだよッ」
エレンが耳元で囁いた。締め付けられた彼だって苦しいのだ、彼のものが一気に体積が膨らんだのを感じ取ってエレンも必死に力を抜こうとする。しかしそうすればするほど、エレンの思惑とは逆に力が入ってしまう。
「ごめん、ッでも力抜けなっ」
一旦引いたはずの熱がまたぶり返してきて、体が熱く火照る。必死で耐えようと囁き合う二人を嘲笑うように、熱は二人の体内で蠢いて二人を苦しめた。
ざあ、と流れる水の音が聞こえて、両親のどちらかがトイレに行ったのだろうと分かった。が、事態は好転しない。エレンは無意識にぎゅうぎゅうと締め付けてしまうし、締め付けられたエレンだって吐精感が高まるばかり。二人はどうにか快感を逃がそうと唇を噛んだり腕に爪を立てたりして、耐える。
ぎしりぎしりと軋む音はやがて、二人の部屋の前に差し掛かった。二人は目に涙をため、呼吸すら飲んで通り過ぎるまで待つ。足音は段々近くなって、二人の心臓ははお互いの裸の肌に相手の心臓の鼓動を感じられる程に五月蝿く鼓動を打っていた。
足音は二人をたっぷりといたぶって、両親の寝室の扉の向こうに消えた。
ほう、と二人は息を吐く。と同時に、エレンはエレンの下唇に噛み付いた。
「ばか野郎、気づかれたらどうするつもりだったんだよっ」
強い口調で囁く彼にエレンも負けじと言い返す。
「痛い、ばか。さっき気づかれるぐらい強く突いたのはどこのどいつだよっ!?」
エレンの言葉に、彼は鼻で笑ってからぐりぐりとエレンの体内に自身をねじ込む。
「ひ、ぃあ」
いきなりそうされたものだから、エレンの口からは抑えようもなかった声が漏れた。エレンはその声をぎゅっと目を瞑って堪えようとした。
(…いつからだったろう)
エレンは閉じた目に映像を浮かべ、それでも襲い来る快感に必死に追いつこうとする。
(いつから、こんな関係になったのだろう)
二人しか知らないことをまるで第三者に尋ねるように、エレンは脳内で自問する。
(やめてしまえばいいのに)
今日だって、どちらかが声をあげればすぐに気づかれただろう。気づかれたら、どうなるだろう?きっと一緒には、もういられなくなるだろう。一緒にいられなくなることが怖いというのに、こんな危険を冒して二人はお互いを求めあっている。
あと数年もしたら縁談だって持ち上がるだろう、結婚しろと世間の無言の圧力がかけられるだろう。お互いそれを知っている、分かっている。
それでもまだだとお互いにしがみついている。
(みっともない)
耳元でエレンの荒い息を聞きながら、もうあと一分ともたないだろう自分の下半身に力を込めた。ひゅ、とエレンが息を飲むのが聞こえた。
(でも、あと少しだけ)
あと少し、少しだけ。
いつだったか、エレンが「後ろだけじゃまだ、イけないんでしょう?」と聞いてきたことがあった。面白がる風ではなく、それは二人にとって重要な確認だった。エレンもそれを知っていた。
あの質問に頷いた自分を、悔やんではいない。結局自分だってこのままでいたいのだ。終わりが来るとは知っていても、今ではないいつかだと目を瞑っている。
そろそろだな、とエレンは目を開いた。目の前のエレンは、この寒い中でも額に汗をかいているらしく、ぐいと額をぬぐった。その姿に、エレンは思わずきゅうと力を込めてしまった。その刺激に彼は苦しげな表情でエレンを見下ろし、これで最後だと言わんばかりに強く深く、エレンの中をえぐった。
「ぁ、あァ」
抑えきれぬ快感が、下腹部から爪先へ、脳天へ突き抜けた。まるで彼と溶け合ってしまったような感覚を覚えながら、しかしエレンはもう何も考えられなかった。
吐精後の気怠さにぐったりと身を任せて、二人はただ何も考えないようにと眠りに落ちた。眠っている間だけは、せめて二人で夢を見たかった。





131225 こまち