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どうしたって甘い色の君だ


「んン〜…」
エレンは後ろ手にエプロンを結ぼうと必死になっている。紺のスッキリとしたエプロンは、彼の金色の瞳とよく合っていた。が、本人はそんなことどうでもよくて、今はただエプロンの紐を結ぶことに没頭している。これで何度目かの調理実習、毎回双子の片割れに結んでもらうわけにはいかない。
しかしそんなエレンに痺れを切らせたのか、違う班の片割れが寄ってきた。
「エレン、結んでやるからーー」
彼は手を伸ばして紐に触れようとするが、エレンにぺしんとその手を叩かれる。
「いいのっ!今回はオレできるから」
頑なに断る彼に、エレンは緑の瞳を曇らせて「じゃあいいけど」と自分の班に戻って行った。
だが、いつまでたってもエレンのエプロンの紐は結ばれない。むしろ絡まっている気すらする。彼もそれはなんとなく分かっていて、けれどエレンの申し出を断ったからにはどうにか自分でしなければならない。
「はい、じゃあ挨拶無しでいいから始めてね〜」
わたわたと焦っていると、家庭科の教師の声が聞こえて皆は包丁やまな板を洗ったりボウルを出したり、がやがやと楽しそうにし始める。そんな周りの様子がエレンを一層焦らせて、後ろの紐は一層絡まっていく。
「っ…エレンん……」
彼の申し出を断った手前、とても恥ずかしい、のだけれど。エレンは片割れの腕を掴んで、眉をハの字にして頼む。
「後ろ、結んで?」
「もう、だから言ったのに」
エレンはそう言いながらも笑ってみせて、後ろを向いて、と優しく言う。
「ごめん」
小さな声で、黄金をちらりとエレンの方へ向けて謝る。
エレンはわざと少し時間をかけて絡まった紐をほどいてやる。周りが忙しそうに動き回ってるのに二人はじっとしたままで、エレンは緑色の目を細めて笑ってしまった。こうして、不器用なエレンをかわいいなあと指先で愛おしんで。
「はい、できたよ」
ぴょこんと跳ねる蝶々を抑えて、ぽんと腰を叩く。
「ん、さんきゅ!」
エレンはそう言って微笑んで、エレンの細い、自分よりも器用な手をぎゅうと一度握った。そのまま、離さない。
「…エレン?離して、班の仕事しなきゃ」
「やあだ」
そうだ、そういえば彼は違う班がいやだとこの間駄々をこねていたっけ。今朝もいやだいやだと言っていたのを思い出す。
エレンはため息をついた。こういう時のエレンは面倒だ。
「やることがひと段落したらまた一緒にいれるし、家に帰ったらずっと一緒だろ。学校であんまりベタベタしてたらあんまりよくないから、な?」
ことりと首をかしげて促すが、彼の金色は悲しそうに曇ったまま。
「わかった、けど。んん…」
むう、と唇をとがらせてエレンは握ったままの手を離す。
「じゃあ今日、一緒にお風呂入ろ」
桜色の唇がぽつぽつと寂しそうに言うから、エレンは思わずその唇にキスをしてしまいそうになる。が、我慢。
「わかった。さ、ほら、お前も戻れ」
渋々といった様子でエレンは自分の班に戻り、それを目で追いつつエレンも班に戻る。

ーーなんだか、なあ。
エレンはコーヒーと寒天を混ぜながら思う。
なんだか、オレばかりがいつも好きみたいじゃないか。さっきも、離れたくないって言ったのに学校でベタベタするのはよくないと諭されるし。折角唇を尖らせて誘ってやったのに、キスもしてくれないし。
ーー嫌なのかなあ、オレといるのとか、オレと…。
確かに二人は血の繋がった双子で、性だって同性。世間的に褒められた関係ではないけど、だって先に求めてきたのは向こうなのだ。あの緑の瞳を妖しく揺らせて、夜に、エレンの部屋にやって来て。それに応えてしまったエレンもよくなかったのかもしれないけれど、どんどん二人は危うい関係に身を落としていった。
ハア、とため息をついて、違う班のエレンに視線を向ける。彼はリズムよく人参を切っていた。細くて白い指が人参を抑えて、包丁がリズムを刻んで…あの指が毎晩のようにエレンの身体に触れて、中まで入ってくるのだと考えると、思わずぞくりと背骨が震えた。あの甘い色を映した目、生暖かい吐息や冷たい指先。一挙に全てを、リアルに思い出してしまって息が震える。それと同時に、寂しくなって、胸に熱い涙の塊が押し付けられたような感覚に陥った。
ふいっと目を逸らして、バットに氷水を入れて、型に流し込んだコーヒーと寒天を並べる。これが終わったら、エレンの所へ行ける。なんで同じ班じゃないんだ、くそ。

さっきは、危なかった。あの桜色にキスをしなかった自分を褒め称えてやりたい。無意識なのか、意識してなのか。どちらにしろたちの悪い。
ちらりと緑色の瞳を動かしてエレンを見ると、ぼうっとしたままコーヒーと寒天を混ぜている。あの真っ白な頬も、シャツに隠れた肌も、夜は桃色に染め上げて、そして自分の手がそこを這うのだ。その時、エレンはエレンのことしか見ていない。金色の大きな瞳を潤ませて、漏れ出る可愛らしい声を必死に抑えて、エレンのことをひたすらに感じている。こんな関係に陥ったのはエレンのせいだし、さして後悔はしていない。否、多分している。けれどそれは胸の奥底に蓋をして、閉じ込めてある。開けなければいいだけの話だ。
手元に視線を移す。今日は一緒に風呂に入るらしいから、体を洗ってやろう。人に、というかエレンに触れられるのが好きなエレンは、一緒に風呂に入ると必ず体をを洗ってとねだる。そこから、行為に発展するのだけど。さて、今日はどうしてやろうか。エレンは切り終えた人参をざるに移して、鍋に水を入れて火にかけた。

エレンが鍋に野菜を入れて、味付けをしているとエレンが後ろから抱きついてきた。
「ん〜〜」
ぐりぐりと肩に額を押し付けて甘えた声を出す。エレンはおたまでスープをすくって、小皿で味見をした。
「…オレ、同じ班が良かったのに」
「今朝も聞いた」
むくれているだろうエレンの声を聞きながら、エレンは塩を足す。そんなエレンの言葉に、エレンはまきつけた腕を緩めた。
「エレンは、オレといるの、やだ?」
珍しく控えめに、寂しそうな声音のエレンにエレンは驚いて目を瞬く。一度火を止めて、エレンと向き合って金色の瞳を覗き込んだ。
「どうしたの」
「だって」
エレンは唇を噛んで、それきり話そうとしない。
「エレン、わからないよ。分かるように説明して」
額をこつんとぶつけて聞くと、エレンはぱくぱくと口を開いたり閉じたりした後に小さな声でまた「だって」と繰り返した。
「オレばっかりが、好きな気がする」
黄金を伏せて、瞼はふるふると震えて、色の濃いまつげは頬に影を落としている。頬はうっすらと上気して桃色に染まっていて、唇はやはり、エレンを誘うように桜色だった。
「同じ班が、よかった」
もう一度呟くエレンに、エレンはにっこりと笑って「オレもだよ」と言った。
「オレも、同じ班がよかった」
「ほんとう?」
伏せられたまつげの合間から覗く金色はひどく淫靡で、エレンは息をのんだ。馬鹿、阿呆、こんな場所でそんな目をするな。
「本当。エレン、好きだよ」
大丈夫、安心して。そう囁いて緑色の目を細めて笑かければ、エレンは戸惑ったように、だけどもう安心したようにゆっくりと微笑んだ。
ーーああもう、可愛い。
ぐずぐずとエレンの中でマグマが沸騰する。熱い熱い、情欲。このまま唇を奪ってそのまま…だめだ、家に帰るまで我慢。
必死に自信を諫めるエレンの胸中を知ってかしらずか、丁度家庭科の教師の声が響いた。
「ゼリー担当の人はそろそろ取り出してもいいと思いますよ」
エレンは額をつけたままエレンに言う。
「ほら、行きな」
「うん…あとちょっと」
「家に帰ったら、な。ほら行きな」
「まだあと、三時間もあとだし」
またむくれるエレンに、エレンはため息をつく。
ちゅ。
リップ音をたてて額にキスをすると、エレンは金色の目を大きく見開いてエレンを見た。それからエレンは抱きしめてぽんぽんと背中を優しくたたいてやる。愛おしいエレンがスキンシップをとらないおかげで寂しがっているのだ、これぐらいは許してほしい。周りも見て見ぬ振りをしてくれると、期待している。
エレンは嬉しそうに、ぎゅう、と抱きついてから体を離した。
「一緒に、お風呂な!」
約束だからな!と言って班に戻って行く。
当たり前だ、忘れるわけがない。そうエレンは呟いて、鍋をもう一度火にかける。エレンの額に触れた唇が妙に熱を持っていた。



131124 こまち
体で言ったら緑金だけど、あざとさは金>>>>>緑みたいな。こんなエレエレちゃんうちのクラスにください…