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「生きる、友情、可憐な愛情」


これで何度目になるだろう、壁外調査から生還できたのは。すぐに報告書やらなんやら、しなければいけないことやしたいことがたくさんある。
自室に戻って体も清めずに机に向かう。今回分かったことや仮説、それに基づく実験の予定。紙を適当にひっつかんでインクもろくにでないペンで書き連ねてゆく。

がちゃん、と乱暴に扉が開けられて、その勢いで山積みにされた書類が崩れた。
「ああっ、馬鹿、ちゃんとノックしてから普通に入ってきてっていつも!」
扉の影から姿を現した、背の小さい兵士長殿に文句をぶつける。だって、いつもノックなしにいきなり入ってくるし、今ちょうど考えをまとめている途中だったのだ。それを中断されてあまりいい気はしない。
「フン、きったねぇな、お前の部屋はいつ見ても」
鼻で笑う彼は既に体をシャワーで流したようで、髪が少し濡れている。
「じゃあ来なければいいじゃないか…どうしたの?」
慰めて欲しいの、と笑ながら言うと、馬鹿言えと冷たい目で見られた。
「うちの班は今回全員生還した。それより、お前ちょっと頭下げろ」
ちょいちょいと手招きされるから近づくと、彼が背伸びをして言うものだから、かわいくて思わず笑ってしまう。すると勢いよく蹴りがとんできて、ハンジの鳩尾に食い込んだ。
「わ!?」
鋭さに虚を突かれ、その後すぐに襲う鈍痛にハンジは身を屈める。
「ほう、丁度いい位置に頭が来たもんだな」
「ちょ、仮にも遠征直後の、しかも女にこんな…くそいてえ」
顔をしかめるハンジにリヴァイはふふんと笑って、彼女の頭に何かを乗せる。髪をくくってある辺りにくすぐったさを感じたハンジは不思議に思いながらも、リヴァイがいいと言うまで動かないでいる。
「ん、できた。おい、それさわんじゃねえぞ。あと落とすなよ」
そう声をかけると、彼はすぐに部屋から出て行った。閉まった扉を見つめながらハンジは「一体なんだったんだ…」と呟く。それから頭に乗せられた何かを落とさぬように立ち上がって、また机に向かった。


「あれ、分隊長、そのお花どうしたんですか?」
夜、食堂で夕餉をとっているとペトラが話しかけてきた。
「花?どの花?」
しかしハンジは何を言われているのか分からない。花なんて持っていたっけ、と自分の身なりを確かめてみるが、どこにもない。
「違います違います、頭に乗っているお花ですよ」
その言葉にハンジは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに思い当たったようで「ああ!」と声を漏らす。先程リヴァイに乗せられたものは花だったのか。
「そっか、花だったのか。ねえペトラ、どんな花?これ」
尋ねるハンジにペトラは、自分でやったんじゃないのかと、ならば誰がと訝しんだ。だがそんなことは上官に尋ねられるはずもなく、「そうですねえ」とハンジの頭上を眺めながらその花を描写する。
「黄色で、花弁がたくさんあって…なんだろう、マリーゴールドかしら」
ペトラにマリーゴールドと言われて、ハンジはちょっと可笑しそうに笑った。
「マリーゴールドね…ふふふ、そう。ありがとう」
笑っているハンジをペトラが不審そうに見て、それに気づいたハンジが言い訳するように手を振って言った。
「いやね、あいつも可愛らしいところあるじゃないの、って」
その視線は、たった今食堂に入ってきた小さな兵士長に向いていた。


131124 こまち