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花のこぼれるあの家に、あの子は住んでるの


陽の光はさんさんと降り注ぎ、真っ青な空を映した海面は、それを反射してキラキラと輝いている。あたたかく眩しいそれに、リヴァイは目を細めた。
あとほんの数十メートル歩くだけで、恋人のエレンの家に着く。特に用があったわけでも、予定していた訳でもない。だが、寒い冬から一挙に暖かくなり、雪の下からバネのように若葉が跳ねるその空気にあてられたのか、リヴァイの足はいつのまにかふらふらとエレンの家の方向に向かっていた。
途中の花屋でスプレーバラの花束を買った。薄桃色の花は愛くるしい彼女に似ていると、手に持つそれを日の光にかざして思う。
いきなり来たリヴァイに、きっとエレンはびっくりするだろう。それからあの金色の瞳をもっと輝かせて、目を細めて嬉しそうに笑うだろう。彼女が笑うと、桃のような頬はふにゃりと柔らかくとけて、えくぼができる。ぽってりとした桜色のぷるぷるとした唇は弧を描いて、リヴァイの名前を、一音一音確かめるようにつぶやく。
そんな彼女の姿を思い浮かべて、心なしかリヴァイの足取りは速くなる。早くエレンに会いたい。


ざり、ざり、と砂利を踏みながらエレンの家の前まで来た。
彼女の家は、可愛らしい、おもちゃのような、女が憧れるような家だった。前に、夢を全て詰め込んだ家なの、と言っていた気がする。真っ白な壁に、木の窓枠、木の扉。庭にはたくさんの緑が溢れていて、色とりどりの花を咲かせている。窓という窓から花がこぼれ出るかのように鉢植えが置いてあって、それはまるでエレンの可愛らしさが溢れる様をそのまま表したようで。

チャイムを鳴らそうとリヴァイが門に近づいたところで、二階のベランダの扉が開く音がした。洗濯かごを片手に持ったエレンが姿を現す。そういえばまだ午前中だったかと思い出して、少し声を張って「エレン」と彼女の名を呼んだ。
エレンはすぐにリヴァイに気づいて、ベランダの柵に駆け寄る。そこから身を乗り出して、頬にかかる髪を耳にかけて、満面の笑みで大きく手を振った。
「リヴァイさん!」
嬉しそうに彼の名を呼んでから、エレンはぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「なんでこんな、ああ、嬉しい!」
飛び跳ねる度にワンピースの裾がふわふわと舞った。白い前掛けはリヴァイがエレンにあげたもので、彼女の真っ白な肌とよく合っていた。
エレンはすぐに、一旦家の中に引っ込んだ。ガタンガタンと、多分エレンの躓いたのだろう音がして、勢いよく階段を駆け下りる音がした。リヴァイはもう、あと数秒で目の前に現れるだろう、抱きしめられるだろうエレンを思って、胸の内側が暖かい光に満たされるのを感じる。


バタンッ!

大きな音をたてて玄関の扉が開けられた。

エレンは裸足で、何も履かずに、玄関を開けっ放しにして真っ直ぐにリヴァイの方へ向かってくる。

膝下まであるワンピースの裾をつまんで、頬を上気させて、駆けてくる。

門の前に立つリヴァイは、門を開ける。

キィと音を鳴らす門は内側に開いてゆき、エレンは門が開けられたのをいいことに、勢いよくリヴァイに飛びついた。


「リヴァイさんっ」
エレンは腕をリヴァイの首に絡めて、つま先で飛び跳ねた。
そんな彼女をリヴァイは抱きとめて、背中に腕をまわす。
「リヴァイさん、いきなり来るなんて珍しいですね!ああオレ、嬉しい」
耳元でそう言われて、リヴァイも目を伏せて微笑んだ。エレンの茶色い猫っ毛が、首や頬に当たってこそばゆい。
「ああ、なんだか無性にお前が恋しくなった」
そう返事をすると、エレンはくすぐったそうにくすくすと笑った。
「オレもちょうど、リヴァイさんに会いたいなって思ってたんです。暖かくて、キラキラした空気にあてられたんですかね」
エレンは腕をほどいて、リヴァイの腕に絡めた。
真っ白な二の腕の肉がふにゃっと形を変えて、リヴァイの服に密着する。
リヴァイはエレンの頬にキスをすると、片手に持っていた花束を差し出した。
「オレに?」
金色の目を丸くして、エレンは花束を受け取る。
「花屋にあって、お前らしいと思ったんだ」
「ほんとう。嬉しいです」
エレンはまた笑った。
「リヴァイさん、お昼はもちろん家で食べていきますよね?午後はどうしましょう、散歩して、ああそうだ、この間すぐそこの浜辺でーー」
エレンはリヴァイの腕を引いて家の中へと誘う。
頬を緩めて話すエレンの話を、リヴァイも嬉しそうに目を細めて聞く。
二人の腕は絡められたまま、玄関をくぐって、家の中へと姿を消した。



131117 こまち