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しあわせのかたち


地下室に降る、狭い天窓からの銀色の月あかりに反射して、双子の目はキラキラと輝いている。
エレンは片割れの金色の瞳を覗き込んで囁いた。
「エレンの目は、綺麗だね。蜂蜜の金色。贅沢」
おいしそう、とは言わずに。すると片割れはくすくすと笑って言った。
「お前の目も綺麗だけど。春の若葉、生命の色。お前本当は、おいしそうって言いたかったんだろ?オレの目」
オレもお前だから分かるんだ、言いたいことはなんとなく、と。その金色を細めてまた笑うものだから、かわいくてかわいくて仕方がなくなって、思わずぎゅうと抱きしめた。首元に温かい吐息が微かに触れてくすぐったい。
「ねえエレン」
「なあに」
抱きしめたままゆらゆらしていたら、背中をぽんぽんと撫ぜられて言われる。
「オレの目、あげようか?」
「…ほんとう?」
ぬくい。血が巡る彼の体はぬくい。
「ほんとう。食べたい?」
そう聞かれて、エレンは迷う。食べたい、でも食べてしまったらもったいないし、ああどうしよう?
「ン…食べたいけど、食べちゃったらもったいないから…あっ、そうだ!」
そこでエレンは妙案を思いついた。片割れの背にまわした手で背中をゆっくりと背骨をなぞりながら言う。
「オレの目も片方あげる。だからお前のも片方頂戴、それで片方ずつをはめて、そうしたらいつも一緒にいれるでしょう?」
エレンの話をふんふんと聞いていたエレンは、嬉しそうに、それがいいね、と囁いた。
それを聞いて、エレンは背骨を辿る手を自分の目に向ける。
「右目と左目、どっちがいい?」
「そうだなあ…左目、かな」
「ん、分かった」
そう言うと、エレンはその手を目の奥に突っ込む。
「ッてぇ」
そのまま勢いよく眼球を掴んだまま引っ張り出した。ぐちゃりと音がして、それから視神経かブツンと切れる。
緑色の瞳をした目玉を差し出すと、エレンも同じように金色の瞳の目玉を取り出した。
「っは、いってえ…」
痛みに顔を歪めながら目玉を手に乗せ差し出すエレンの姿に、エレンは少なからず興奮する。
「ありがと」
にっこり微笑んで受け取ると、頬に自らの温かな血が、そして受け取った手のひらに片割れの血が流れた。
受け取った目玉を愛おしそうに両手で包み、口づけをおとす。柔らかい自身の唇と、それからエレンの目玉の白目の柔らかさ。少し歯をたててみる。ああ、このまま食べてしまいたいだなんて。
赤い空洞になっているだろう眼窩にその目玉を持ってゆき、ずぷん、とはめる。少しの間外の空気に触れていたからか、冷たいような気がする。
視神経は繋がっていないから左目は見えないまま、だけど嬉しい。
「似合う?」
微笑んでみせると、エレンのものをやはりはめ込んだエレンもこちらを見て笑った。
「似合う。お揃いだな、オレたち」
秘密を分け合う幼子の様に、お互いに顔を見合わせて笑い合う。
見えない左目からじんわりと温かいものが広がってゆく気がした。


それから程なく眠りについたエレンたちだったが、夜中、片目の違和感に目を覚ました。
眼窩から突き上げるような、瞼がおされる、圧迫感。もらった片目が押し出されるようで。
「ッは、ぁ」
再生能力で、エレン自身の目が再生されているのか。そのせいで、片割れからもらった目玉が押し出されているのか。
瞼の押される痛みで、息を吐き出す。
隣で寝ているはずのエレンを見ると、やはり痛みに顔を歪めている。
「痛い、ねえ、エレンいたい」
「オレも、いたい」
二人でぼろぼろ涙を零す。目の痛みよりも、お互い目を交換したままでいられないことに、悲しくなる。目玉が二つあることに耐えられなかった眼窩は、ついに片割れに貰った目玉を吐き出してしまった。
「エレン、なくなっちゃった、ねえ。オレたち、一緒にいたいだけなのに、いられないの?」
緑の瞳のエレンと、金の瞳のエレン。ただ、二人はいつもお互いを感じていたかっただけなのに、それを目を交換することで感じようとしていただけなのに。二人はぼろぼろと涙を零す。もう月光は天窓から入れるほど月は高くなくて、二人の涙は反射することもなく、ぼたぼたとシーツに染み込んでいった。


131111 こまち