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あるきこりの話


あるところに一人のきこりがおりました。
目は綺麗な緑で、まるで森の若葉の色を映したようで、それはそれは美しい瞳です。
彼は毎日、一本の斧を持って森へ行き木を切るのでした。


ある日、きこりはいつものように斧を担いで森へ行きました。
今日は少し奥まで行こうと(手前の木ばかり切っていてはまるはげにしてしまいますから)、いつもよりも奥の方へと歩いて行きました。
適当な木を見つけると、きこりは斧を振りかぶって、一度少しくびれを切り出します。
そうして、木の倒れる方向を決めるのです。
木に止まって休んでいた鳥たちが、木の震えに気づいて一斉に飛び立ちました。
ひときわ、彼の頭上が騒がしくなります。
きこりは彼らに、「ごめんな」とつぶやきました。
くびれを作ったら、切り口以外は傷つけないように気をつけて斧で切ります。
大きくふりかぶって、斧を振り下ろそうとした瞬間。
スポーンときこりの手から斧が飛んで行ってしまいました。
「わあ!?」
きこりは斧が飛んで行った方向に慌ててかけて行きました。
ちゃぽん、と音がしたので、きっと池が何かに落ちてしまったのだろうと思うと、やはり、向かった先には池がありました。
しかしその池は意外に深く、中に入って取ろうにも取れそうにありません。
どうしようかと考えあぐねていると、池の中央が蠢きだしました。
なんだろうと眺めていると、中からいきなり、人の形をしたものが現れました。
それはするすると近づいてきて、きこりの目の前までやってきました。
「えっ…おまっ…ドッペル!?」
きこりは驚きの声をあげました。
それもそのはず、水を滴らせて近づいてきたのは、きこりと同じ顔形の人だったのです。
水上のその人物も驚いたように動きを止めていましたが、やがて、手に三本の斧を持って言いました。
「あなたが落としたのは、金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?それとも、この古い斧ですか?」
水上の彼は、きこりと同じ声で、だけれどもうすこし透き通った声できこりにたずねました。
きこりは正直者だったので、「オレが落としたのはそのただの古い斧だよ。ありがとう」と言って受け取りました。
水上の人物はたいそう感心して、「嘘をつかなかったので、金の斧も銀の斧も、全部あげちゃいます」と、二本ともきこりに渡しました。
「いいのか、これ…?それに、今思ったんだけど、お前の瞳、綺麗な金色なんだな。この斧と同じように。お前が持ってた方が映えるんじゃないか?」
きこりはしぶります。
けれど水上の彼は、この池の神様なので、金の斧など簡単に作れてしまうのです。
そのことを申し訳なさそうに、だけど少しだけ嬉しそうにきこりに告げると、きこりは納得して、ありがとう、大切にするな、と笑いました。
神様はその笑顔に心惹かれ、手を伸ばしてきこりの頬に触れました。
きこりの瞳は、緑色で、その緑に神様の金色が写っていました。
「また、来てくれますか?」
神様がそう言うと、きこりは神様の冷たい手を握って言いました。
「当たり前だろ!オレの名前はエレン。エレン・イェーガー。お前は?」
「オレは、ーーーー」
池には、水滴がいくつもの波紋を作っていました。


131031 こまち
10月エレエレに提出