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全ての色をあなたに向ける


何の話をしていたのだかもう忘れてしまったけど、その時彼の瞳が太陽に照らされて、やけに美しい金色に輝いていたのは覚えている。
ガラス玉が陽の光に照らされて、中にもう一つの太陽があるみたいな光り方。
なんて美しいんだろう、なんてかわいらしいんだろう!
何故こうも惹かれる?
顔のつくりも同じで、体格も同じで、だけれど分隊長の実験の産物でしかない自分とは大違いの彼に。

「ねえエレン」
「それでーーーー…なんだよ?」
彼の話をわざと中断させて、自分の存在を強調する。
「オレ、ハンジさんの実験で想定外の物体だからさ、いつ消えるかわかんないんだよね」
これは、彼に対する嫉妬も含む。
そんな感情も含めてエレンに惹かれてしかたがないのだけれど。
「…」
彼は渋い顔をする。
優しいから、突然生まれていつ消えるかわからない存在の俺に同情しているのだろう。
ああ、もやもやする。
惹かれる、惹かれているけど、どうしようもなく醜い淀んだ闇の色の感情。
つまりはそう、"見え透いた安っぽい同情なんかしなくていいんだよ"!
だけどオレはそんなこと言わない。
彼に似て優しいからね!
「だからね、エレン、オレはこの気持ちを吐露しようと思うんだ」
とろ?と彼の唇が動いて、ああ、吐露ね、と納得する。
「オレのことを恨んでるとか、そういう感情か?それなら、知ってるつもりだーーー」
「まさか!」なんという見当違い、それはない。「そんなことはない」
彼は目に見えて安心したという表情になる。
ああ、そんな表情、オレには到底無理だろうできないだろう、しやしないだろう。
頬を桃色に染めて産毛をオレンジ色に染まらせて、その金色に温かな糖をのせることなんて!
「違う、そうじゃなくてね、オレがエレンのことを大好きだってことだよ」
「お、オレもお前のこと好きだぞ…?」
目の前にいるエレンの瞳には、今までに見たことのない色がうつされていた。
「きっとエレンの言ってる好きとは違うんだけどね。
その大きな金色の目もオレと同じ顔形、筋肉はつき方の少し違う体、それから高さは同じなのに震え方の違う声、淀みを何も知らないような性格、優しさ、全部ひっくるめてお前に惹かれてるんだ。オレーーオレ、生まれてきたばかりだけど、好きなんだよ、エレンのことが」
一気に流れ出したオレの言葉に、彼は徐々に赤くなっていく。
しまいには耳の端まで真っ赤っかになって林檎のよう。
「っ…ば、ばかやろう!オレ、オレはっ!!」
そこまで言って耐えきれなくなったのか、くるりと背を向けて走り去る。
「え、あ、待てよ!」
いきなり走り去られてびっくりして(きっと彼もオレが突然好きだと言い出して相当びっくりしただろうけど)、足を踏み出そうとした。
「…あ」
そして、気づく。
彼の落としていったものに。
「これ、オレがあげたやつ」
ハチミツ色のハンカチで、E、と刺繍がしてある。
いつだかの休日に街に出て、エレンに土産にと買ってきたものだった。
その時は女っぽくて嫌かなとか、ハンカチなんて持たないかなとか思ったし、今日たまたま持っていただけかもしれないけど。
ぼぼぼ、と自分の頬が熱くなるのを感じる。
「っ、あざといんだよっ」
きっと真っ赤であろう頬に言い訳するかのように口の端を歪めた。
靴を落としたシンデレラを王子様が見つけに行ったように、オレもハンカチの主を迎えに行こう。
そして言うんだ、「魔法はまだとけないの?」って、最高のあざとい笑顔でね!


131007 こまち