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好きなんだもん!


最近、妙な視線を感じる。一人で歩いている時だったり、バイト中だったり、家にいる時だったり。大学にいるときもそうだ。最初は特に気にしていなかったけれど、だんだんとプライベートな場所でも視線を感じるようになって、これは危ないなと気づいた。でも気づいたからと言って誰かに言おうとは思わなかった。何だかその得体の知れない相手に負けた気がするし、男なのにそんなストーカーみたいなのに狙われるなんて知られたくないし。特にミカサ。あとは、リヴァイさん。彼らは強いからどうにかしてくれるかもしれないけど、ミカサは過保護だし、恋人のリヴァイさんに言うのはちょっと気が引ける。
ああ、そう、でも必ず視線を感じない場所がある。それはリヴァイさんの家に行く道、と、リヴァイさんの家。オレが恋人と話しているのが嫌なのか、その間だけオレは嫌な視線から逃れることができる。だから、リヴァイさんの家はいつもすごく安心する。当たり前だけど、彼の家にはリヴァイさんがいるし、彼の匂いがするし、最近は妙な視線を感じないし。でも、だからってあまり彼に甘えてはいけないと思うから、もう限界まで追い詰められた時にしか家を訪れないようにしている。前だってそこまで多くの回数訪ねてきたわけじゃないし、いきなりたくさん訪れるようになったら疑われるだろう。…なんだかリヴァイさんを利用しているみたいで嫌だな。


ある日、オレはいつも通り大学に行っていつも通りバイトをこなしていつも通り布団に入った。今日もまたあの妙な視線を感じていた。いい加減病みそうだ。もう誰かに言ってしまおうか、と考えながら、体に溜まった疲れが眠気を誘う。ふああ、とあくびをひとつして、オレは目を閉じた。



意識が浮上する。まだぼやける視界と頭で、起きたついでにトイレに行こうと布団から出た。時計を見ると、布団に入ってから2時間しか経っていない。
ぺたぺたとトイレに向かい、用をたしてまた布団に戻る。
「ん…くぁ…」
あくびをして、布団に潜ろうとしたそのとき。

「ッ!!!」
ベランダに人影が見えた。オレの住んでいる部屋は寝室からベランダに続いているから、ふと視界に入ったのだ。
まさか、まさかストーカー!?オレが寝ていると思って?でもここは5階だし、いや登ろうと思えば登れるのか?いやだいやだいやだこわい。やめてくれ、もうこうなったら警察か誰かに通報するしかないのか!?いやだ、こわい、やめてくれ。がたがたと体は勝手に震え出して、オレはばさりと勢いよく布団を頭から被った。
早く、早く立ち去ってくれ…!!
そう願うのに、ベランダの戸は無情にもカラカラと音をたてて開く。タ、タ、と床を踏む音がして、ああ近づいてくる!!!体の震えは増し、布団を体により一層密着させる。やめろやめろやめろ!!!もしこれ以上近づいたら逆に襲いかかって一度意識を失わせて警察に通報しよう。そう決意して、オレは拳を固く握りしめた。
ぐ、と布団が上に引っ張られる感覚。くそ、こうなったら一瞬で決めてやる!リヴァイさんから護身術みたいなものは一応教えてもらったことがあるし大丈夫。…大丈夫だいじょうぶ。言い聞かせて、オレは布団を跳ね除けて人影に拳を振り抜いた。

「おいエレ…!」
人影はオレの拳を除けて…除けて。というかこの声、
「リヴァイさん…?」
気の抜けた声が部屋に響く。


電気を消したままの部屋で、リヴァイさんはオレの顔色が最近悪かったから見にきたのだと言った。確かにストレスであまり眠れなかったり、ごはんが喉を通らなかったりしていた。
「気づいてくれて…ありがとうございます」
心の中では、本当は誰かを頼りたかった。安心できる場所が欲しかった。ありがとうございます、と何度も呟いて目をこする。
「目ぇこすんな…もう寝ろ。俺が見といてやるから」
安心して寝ろよ、とリヴァイさんはオレの頭をぽんぽんと撫ぜて、横になったオレに布団をかけてくれた。
「ん…ありがとうございます……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
彼の低い声を聞いて、安心してオレは目を瞑る。今日はよく眠れそうだ。



エレンの寝顔を見て、自然に破顔する。かわいいかわいい、俺のエレン。
と同時に、リヴァイは今日の失態を反省する。迂闊だった。いつもは見つからないように細心の注意を払っているけれど、何故だかベランダに出たくなってしまったのだ。月明かりに照らされたエレンを見て、美しいが、エレンをこんなに美しくする月が憎たらしいと思った。だがまあしかし、終わり良ければすべて良し。リヴァイは手の中の合鍵を弄んだ。これを得るのにそんなに時間はかからなかった。だがもしエレンが、リヴァイが彼をつけていると知れば返せと言うだろう。この関係も終わりになるだろう。そんな失敗は犯さないが。
ふふ、とひとり笑って、リヴァイはエレンの唇にキスをした。

130828 りーく