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 手に余る甘さと夏のアイスクリイム


カモメの鳴く声、打ち寄せる波の音、潮の匂い。コンクリートで固められた地面は暑さで揺らめくことなんてなくて、陽射しはちょうど良い温度を保っていてくれる。海と反対側にはおしゃれなレストランや露店が立ち並んでいる。

「綺麗ですね…」
エレンとリヴァイは2人並んで、賑やかな港町を歩いている。海の青に、太陽の光がキラキラと反射していて宝石箱の横を歩いているようだ。
「まだ籍は入れられないですけれど、こうやってハネムーンみたいに海外に来れて幸せです」
まあリヴァイさんと一緒なら地獄だって幸せですけれど、なんて歯の浮くような台詞をエレンはさらりと言ってのけた。
リヴァイはフンと鼻をならしてそっぽを向いた。そんなリヴァイにエレンはくすりと笑って、彼の手に自分の手を重ねて、ぎゅっと握る。そっと握り返す温もりが嬉しい。

エレンとリヴァイは付き合っていた。むしろもう、結婚すらするつもりだった。が、2人が住む国では同性での結婚は認められていない。理由はきっとたくさんある、が、一つだけ心当たりがある。生産性の問題だ。生物は元々、子孫を遺すためだけに存在している。それが全生物の存在価値だ。そんな建前に加えて、少子高齢社会の問題もある。少子化が急激に進んだ現代社会では、なんの生産性も無い同性愛者など、結婚を認めてしまったら、子供がもっと減ってしまう。だから禁じている…のではないかと、エレンは推測している。何せ女性手帳だかなんだかを配布するだの、女性を子供を産む機械と発言したりする政治家ばかりがいるのだから。
結婚ができないなんて、と落ち込むエレンに、リヴァイは一ヶ月仕事に休みをとったから、ハネムーンとしてどこか旅行にでも行こうと誘った。結婚という形にこだわらなくてもできることはたくさんあるだろうと。エレンは確かにその通りだと、結婚にこだわらなくてもいいと思った。そして何より、一ヶ月もずっとリヴァイと一緒に過ごせる。それだけで毎日の生活が一層色付いたように感じた。どこに行こう、ヨーロッパか、インドか、アフリカか、アメリカか。海か、山か、都心部か、田舎町か…。2人でどこがいいだのどこそこは嫌だの話して、盛り上がって、最終的に2人が決めたのはギリシャだった。街並みも綺麗で、海も美しい場所。気温も高すぎるわけではなく、日陰に入れば汗もひく程。汗をかくことが人一倍嫌いなリヴァイにも、海に惹かれて惹かれて仕方がないエレンにもちょうどいい場所だった。


「あ、リヴァイさん、見てくださいあそこ」
エレンが繋いでいない方の手で指差した先には、ソフトクリームを売る露店が。きらきらした目でそれを見つめるエレンは、ちょっと買ってきますねとするりとリヴァイの手をほどいてかけて行った。
リヴァイはほどかれた手をそっと太陽にかざしてみる。眩しい。エレンと同じように眩しい。散々エレンに甘い言葉を吐かれてきたリヴァイだが、しかし胸中を言葉にしたら、甘いどころの話では済まないだろう。きっと甘さを通り越して胸焼けをおこしてしまう。それ程にリヴァイはその胸の中にエレンへの激情を秘めていた。
物思いにふけるリヴァイに、戻ってきたエレンが声をかける。
「リヴァイさん、買ってきました!これ、リヴァイさんの分」
「ん」
はい、と手渡されたそれを素直に受け取ってぺろりと一舐めする。甘い。でも、嫌になる甘さではない。バニラの香りが鼻にふわりとこもった。
「ねーリヴァイさん、リヴァイさんのそれ一口下さいよ」
同じ味のもののはずなのにエレンが言い出す。
「お前も同じもん食ってんだろ」
「いいじゃないですか、リヴァイさんの食べたいんです。そのかわり俺のあげますから、ね?」
別に損得の話ではないんだがな、と思う。まあその気持ちは分からなくもないし、だからリヴァイは自分のをエレンの口許に差し出す。エレンは嬉しそうにそれに歯をたてた。歯型がつく。
それじゃ、俺のも、とエレンが差し出した。リヴァイより食べるのが遅いからだいぶ溶けているそれを大きく舌ですくうとエレンが抗議の声をあげた。
「リヴァイさん食べ過ぎです!オレそんなに食べてないのに!」
「ガキみたいなこと言ってんじゃねえ、なんも変わんねぇだろ」
「いーーーえ!!かわります!!もう一口貰います!!」
エレンはそう言うと、がぶりと大きくリヴァイのにもう一度歯をたてる。そう噛みつかれると、リヴァイもやり返さないわけにはいかない。
「てめ、だったら俺も食ってやる」
最初はどっちの一口が大きいかなんて考えていたなかったけれど、いつのまにかリヴァイとエレンはのどかな異国の港でソフトクリームを取り合っていた。
一方がもう一方のを食べるとすかさずやり返す。
そうこうしているうちにアイスクリームは溶けてだしてしまった。リヴァイは素早くたいらげたが、エレンは不器用で、だから指にだらだらと白いのが垂れてしまう。それを見てリヴァイは元々細い目をさらに細めて、エレンのアイスを手ごとべろりと舐めた。
「っひゃあ!?」
ざらざらとした、でも柔らかい薄ピンクの舌に舐められてエレンは赤面する。今リヴァイの胸の中にあるのは独占欲だ。そのまま少しだけ残っていたアイスを食べてしまう。
「ちょ、リヴァイさん」
抗議しようとするエレンにリヴァイは指を口の中に突っ込んで黙らせた。長いごつごつした指がぐりぐりと口内をまさぐるからエレンは涙目になって唾液を口のはしからこぼしながら、人前でこんなことをされることへの羞恥に顔を真っ赤にさせた。
「俺はな、エレン」
指と指の間に舌を這わせながらリヴァイは言う。
「本当はお前に指輪でもやるかと思ってたんだ…が、考えが変わった。お前の手を汚すのは俺のだけにしろ」
それはつまり、指輪にさえも嫉妬して、先程のアイスクリームにも嫉妬したということで。エレンは嬉しいやら恥ずかしいやらで、口に指を突っ込まれたままあうあうとしか返事ができなかった。


130716 りーく
クク様リクエストありがとうございましたっっ!!!現パロか原作かは指定がなかったので勝手に現パロにしてしまいました…もしお嫌でしたら書き直しますので!!
いつもの通り中途半端な終わり方ですみません…
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