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初めてのピアス

「なあエレン」
兄が深刻そうな顔をして部屋に駆け込んできたものだから、なんだなんだと釣られてオレも深刻な顔つきになってしまった。そんな三十秒前のオレの頭をはたきたい。いやむしろ、目の前の兄の頭をはたきたい。
オレの部屋に駆け込んできた兄のエレンは、ベッドに寝転がっていたオレに抱きついてきた。あまりにその金色を、心配になのか他の感情になのか揺らめかせていたものだから思わず彼の頭を撫ぜて、「どうしたの」と聞いた。するとエレンはオレの腰に腕を巻きつけたまま、オレの胸にぐりぐりと顔を押し付けてくる。そのまま黙ったまま数秒、やっとエレンは口を開いた。
「ピアス、怖くて開けらんない」


「はい、じゃあ開けるから動かないでね」
情けない顔をした兄をベッドの上に座らせて、オレはエレンの耳にピアッサーを当てて手に力を込めようとした。この状態になるまでに十分ほどかかっている。どんだけヘタレだよ。
「えっ、ちょっと、まじ、えっ待って」
折角人が手伝ってあげてるのに、しかも開けてあげるって言ってるのにエレンはピアッサーに力を込めるオレの手を妨げた。まだごねるのかよさっさと腹くくれよ…。
「なんで待つの?開けたいんでしょ?オレが開けてあげるからなんも怖くねーじゃん、だから手どけろ」
「むりむりむりむりまじむりまじむり!!!え、じゃあオレ自分でやるわ。貸して」
オレの手からエレンの手に移るピアッサー。既に二人の体温がうつって大分暖かくなっている。
「は?兄貴ほんとにできんの?」
さんざんごねて、無理だって言ってじたばたしてたのはどこの誰?エレンは眉根を寄せて唇を噛み締めている。そんなに力まなくていいのに。
「できる!オレはできる男だそうだなんだってできるだからこれ握ればいいだけなんだ…なあエレン一緒にいっせーのせって言ってくんね?」
「いやいいけど…じゃあいくよ?
いっせーの、」
「うわああああやっぱ無理!!むりむりむり!!お前ピアス開いてるよななんでこんなできたの!?オレ無理なんだけどまじむりほんとむり死ぬ」
「じゃあ開けなきゃいいじゃん。やめれば?」
「やだよお前と同じのしたいもん」
結局無理じゃん!しかもなにその台詞誰か他の女に言ったらいいんじゃない…オレはもうエレンのどんな言葉にもときめかない気がする。こんなヘタレの台詞にときめく時は来ないだろうな。
「あーハイハイ。でもじゃあどーすんの?オレが開けるのもやだ、自分でも開けられない、もうどうしようもないじゃん」
「で、できる!もっかいだけ一緒にいっせーのせ言って!そしたらできる」
ほんとかよ。
「わかった。はい、いっせーの」
「あああああむりいいいいいいい!!やっぱ無理!!!!」

またかよ!
オレはいい加減この茶番に飽きてきて、エレンの手からピアッサーをひったくった。
そして印を付けたエレンの耳朶に当て、パチンと押し込む。

ほんの一秒にすら満たないオレの早業に、エレンはぱちぱちと目を瞬いた。多分、何が起こったのか分かっていない。
「ん、できたよ」
オレが使い終わったピアッサーをエレンに渡すと、ようやくエレンも我に返ったらしい。また騒ぎだした。
「わ、わあああ開いた!開いた!?エレンさんきゅ!!うおおおおお」
エレンは耳朶に手をやって、ピアスがはまっているのを確認してベッドの上をごろんごろん転げ回っている。ぎしぎしとスプリングが軋んだ。
オレのベッドなんだけど。そう、心の中でだけ主張してオレはエレンをさっさと部屋から追い出すことにした。


…ちなみにその後、エレンはもう片方も開けたいとのたまった。




131220 こまち
エレンちゃんヘタレだといいなあかわいいなあ。妹のエレンちゃん♀はしっかりしてるイメージ。
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