押し付けたもの | ナノ


腸内会のお祭り騒ぎ


あー、もう朝か。今日は休日だよな、どっちの目覚ましも鳴ってないし。
エレンは目を覚まして、いつものくせで隣に眠っているだろう物体に朝のキスをしようとした。同居している彼は、昼間は仕事をきっちりこなすほぼ完全無欠の人であると言っていいが、朝、寝起きはすこぶる悪い。無理矢理起こそうものなら、そこらのヤンキーも涙目になるような目つきで相手を黙らせ、二度寝する、もしくは仕方なく起きて機嫌を悪くしてむっつりと黙ったままかどちらかだ。
そんなとこが可愛いんだよなあ、なんて朝から彼のことで脳内がピンクでお花畑なエレンだったが、目の前にも、反対側にもキスすべき相手がいない。おかしい。ぼんやりとしていたエレンの脳はいつになくはっきりと覚醒した。

「リヴァイさん!?」
エレンは悲鳴に近い声をあげて慌ててベッドから降りる。何も体にまとっていないそのままの状態では流石に外からも見えるので、昨夜散らかして床に放ったらかしだった下着だけは一応身につける。
「リヴァイさん、リヴァイさん」
どこ、どこ、どこ。エレンは部屋中探し回る。クローゼットの中、棚と棚の隙間、ベッドの下。いない。布団の中に隠れてるのかと思ったがいない。エレンの目は焦りのせいか曇っている。
とりあえず、寝室にはいないようだから隣のリビングにに移動して探す。テーブルの下、ソファの上、食器棚の中、どこもかしこも探してみてもいない。どこに行っちゃったの、リヴァイさん。エレンは涙目になってあたりを見回す。散らばったベッドの上とその周り、扉、壁、テーブル、キッチン、窓、壁。どこにもいない。
「リヴァイさぁん…」
エレンは今にも泣きそうな声でどこにもいない彼の名を呼ぶ。

どうしたものかと涙目になっていると、そういえば探していない所があった、と思い出す。多分何処よりも居そうな場所だ。だけどエレンが目が覚めて探し始めてから30分以上は経っているし、そこから長時間出て来ないのはおかしい。どうしたんだろう、いやその場所に閉じこもるには理由はきっと一つだけ…いや、二つか?とりあえず彼に異常があったには違いないだろう。エレンはそこへ急いだ。
そこ、とは、トイレだ。
トイレに閉じこもるなんて嘔吐か腹を下したかしか思いつかない。でも嘔吐だったら声で気づくだろうし、腹を下した…?あのリヴァイさんが?まさか、そんなことあるはずない。だって一度も体こわしたことありません、みたいなかんじがするもの。
トイレの扉の前に立つと、控えめにノックする。
「…リヴァイさん?」
声をかけると、中でざあっと水を流す音がして扉が開けられた。
「リヴァイさん!!よかった、いたんですね!どこに行っちゃったのかと…でもどうしたんですか、こんなにずっと」
リヴァイを見つけた安心感からか、エレンはトイレの扉を開けた彼にまくしたてる。
「うるせえ」
彼はその一言でエレンを黙らせ、むっつりとした顔を扉の奥へまた引っ込めた。
「ああっリヴァイさんちょっとっ」
エレンが悲痛な声を出しても返事はしない。
「リヴァイさん、ほんとにどうしたんですか?オレ馬鹿だから言われないとわかんないですよ…」
ぐずるエレンに、リヴァイはトイレの中でため息をついた。言いたくないんだっつの。一番の大きな理由は、男として、軟弱な気がするから言いたくない。それに、エレンに笑われなくない。いや、エレンは笑うような人じゃないけど、でもプライドが。
「ねえリヴァイさんってば。お願い、返事してください。オレ、なんかしましたか?だったら言ってください、なおしますから」
扉の外から聞こえる、エレンの切実な願いが込められた声にリヴァイは屈した。リヴァイはエレンの声に弱い。声に、というか、エレンに。
「お前、昨日生でヤって、…中に出しただろ」
「ええ、…あ」
それだけで伝わったらしい。エレンはドアノブにかけていた手をおろす。
でも、とエレンは不思議に思う。なんで今日だけ?前にも生で中に出したことはあったし、でもなんともなかったのだ。
もしかしたら、リヴァイには何か思い悩むことがあるのかもしれない。オレが普段の生活で迷惑をかけてるのも多分あるだろう。まだガキのオレを相手にするのはきっと疲れるだろうし、彼も若く見えると言っても三十路だ。体力的にもエレンとは違う。毎晩のように体を重ねていれば、それは疲労に繋がるに決まっている。昼間は普通にサラリーマンとして社会に出て、夜は疲れきった体を若者に預け、貪られ。
想像して、エレンは申し訳なくなった。

静かになった扉の向こうを睨みつけながら、下腹に手をやる。おさまったか。朝、腹痛で目が覚めてから今までずっと、トイレにこもってぎゅるぎゅるとどうしようもない生理現象に耐え、尻の穴から殆ど液体のそれを便器の中へ落とし続けた。今ようやくおさまったようで、リヴァイは便座に座ってほうっと息を吐いた。その反動で吸った空気は、消臭剤でちゃんと浄化されている。
しばらく中出しはおあずけだな、と考えつつ、エレンはそれを言ったらどんな反応をするだろうと想像する。きっとしゅんとしていて、耳でもついていたらぺったりと垂れてしまっているような感覚に陥るだろう。嫌いじゃ、ない。そんな表情は。でも、リヴァイ自身も自己嫌悪というか、罪悪感を感じるのだ、そんな表情をされると。
どうしたものかと考えあぐねていると、エレンが扉の外から後ろめたげな声で言った。
「あの、ほんとごめんなさい、リヴァイさんにいつも迷惑かけてて、疲労にも気づかなくて…これからはちゃんと回数も自重しますし生では暫くやらないことにします。だから、あの、落ち着いたら出てきてくださいね。オレ、朝からほんの一瞬しか貴方の顔見れてなくてさみしいので…」
言い終わって、離れていく気配。すまねえな、と心の中で呟く。気遣わせてしまって、さみしいと言わせてしまって。
今日、腹の調子が戻ったら甘やかしてやろう。自分より高い体温の彼を腕に抱いて、一緒にソファに沈んで頭のてっぺんにキスをして、目元にキスをして、鼻の頭、唇、首筋、鎖骨に。そんなことをしているうちに若い彼は盛ってしまうだろうか。我慢できないとギラギラとした目で見られるだろうか。まあ、それも悪くないかな、なんて思ってみたりする。腹の痛みぐらい、どうってことはない、エレンとの時間に比べたら。


130807 りーく
はなつむりに。