押し付けたもの | ナノ


初夜


それが突き入れられた時から、エレンは何処へ向かって行く気がしていた。だけど何処へ向かっているのか全くもってわからなかった。目の前に在るエレンの金色の瞳は太陽に照らされた月のように銀色に光輝いていて、それがはっきりと見えるのにエレンの頭の中は何処かへ向かっていた。
目の前の銀色がゆらゆらと揺れる。彼も苦しいのか、眉を潜めている。
エレンは自らの中で蠢く肉塊を感じて、これ以上無いほどの快感を受け止める。これ以上無いと、どの瞬間も思うのに次の瞬間にはそれが塗り替えられる感覚。
二人とも息は荒く、周りの空気は冷たいはずなのに自らの体は熱くてたまらない。どうかすると内側から弾けてしまいそうだった。
それもいいかもしれない、とエレンは殆ど霞がかった思考を巡らせた。
内側から弾けて何もかもを弾け飛ばせて、目の前のエレンと共に臓腑や脳漿までもどちらのものか分からなくなるほどごちゃごちゃになればいい。
「ぁあ、ア、っあ、んんッ、は、ぁ、あ」
強く、弱く、強く、強く。打ち付けられる度に女のような嬌声が口から迸る。女のような、なんてそんなもの生で聞いたことなんて無いけれど。
自分の声が大きく上がるたび、目の前の彼は情欲に塗れた銀色を嬉しそうに細めて、エレンの中に埋めたものをぶくりと膨らませる。エレンはそれを見て、感じて、口の端を歪めるのだ。みっともない自分の顔を歪めて、快感に喘ぎながら。
「あアッ!っん、んんっ」
いきなり、エレンがエレンの唇を奪った。その姿勢によって深く押し込まれた彼のものに、エレンは一際大きな声を上げた。
エレンは美しい銀色を瞼の向こうに閉じ込めることなく、エレンを見つめている。エレンもそれを見つめ返して、だけど眩しくて目を細めてしまう。
下半身だって繋がったままで、口内も彼の舌で弄られて、エレンはもう何が何かわからなくなってきていた。舌を絡ませる彼に、苦しいと訴えようとしても全身から力が抜けてしまったようで何もできない。
鼻から荒い息と声が漏れて、ついでに生理的な鼻水まで出てくる。多分顔中ぐちゃぐちゃで、でもどうこうする気力も体力もなかった。
もう抵抗することすらできなくて、ずっと塞がれたままの唇から酸素を取り込むこともできない。朦朧とする意識の中、エレンはエレンの銀色に自分の緑が映っているのを見た。
「あ、ァ、ぁあんっ」
ようやく解放された口からは、唾液と声が一緒くたに放出された。
目の前がぼやける。
強烈な快感に、エレンは一瞬で地球を離れ太陽へ向かっていた。
月に見守られ、空へ空へ一直線に向かう。すぐに大気圏にぶつかって、体が燃えるように熱くなった。摩擦で体が業火に焼かれ、しかしその痛みさえも心地よい。大気圏を越えても身を焼き続ける業火は消えることなく、より一層熱く燃えさかる。月の目の前を一瞬で通り過ぎ、それなのに月はずっとエレンを見つめているようだ。
真っ暗な宇宙の中でエレンの体だけが燃えているような気がした。
やがて金星の真横を通り過ぎる。煌々と光り輝く金星も、しかし今のエレンにはなんの魅力も感じさせなかった。ただ体の内でのたうちまわる快感と体を焼き尽くさんとする業火とに、エレンの感覚は全て奪われているようなものだった。
月に見守られ、エレンは止まることを知らない。そうして、熱気が押し寄せる。エレンの体を這い回る火よりも熱く大きく、全てを呑みこむ勢いで燃える太陽に、近づいている。
エレンは目の前の月にじっと見つめられーーー
太陽に飲み込まれた。
「ッァああア!!」
爆ぜる。
本当にエレンの肉体が爆ぜてしまったようだった。
強い衝撃と、狂気に陥れる程の快感。
「ひ、ぃあ」
太陽に飲み込まれた余韻にエレンはがくがくと体を震わせ、そこに在るはずの月をーー二つの月を見上げた。

彼は優しく微笑んだ。
それだけでよかった。エレンは言葉を聞きたくなかった。素晴らしい感覚に身を浸して、できればこのままでいたかった。
どさりと自分の方に倒れこんだエレンの体を支えて、エレンは目を瞑った。できるだけ長く、彼の体温を感じられるように。


140105 こまち
採さんへ