「おとうさん、電話です」
「ああ、有難う」


昼下がり、息子が書斎まで携帯を運んで来た。家の中でも外でもあまり携帯を持ち歩かない俺は、そのせいで妻によく怒られる。息子は文句も言わずに俺の元へ携帯を運んでくれるので、かなり助かっていた。

震える携帯を息子から預かり、開く。そして「仁王雅治」と名前が浮かぶディスプレイに首を傾げた。普段からろくに連絡を寄越さないような奴だ。何の用だろうか。


「もしもし」
『おお、参謀。すまんが今すぐ家に来てくれんか』


焦ったような仁王の声。その声にも驚いたが、後ろから響く子供の泣き声に更に驚いた。


「泣き声は名前ちゃんか」
『そうじゃ、助けてくれ』
「何かあったのか?」
『ちょっと目を離した隙に泣き出して止まらんのじゃ』
「奥さんは?」
『今出掛けちょる。携帯も出ん。』
「詳しく状況を教えろ。どこか痛がっているか?」
『ええと…』


携帯をその場に置くような音がして、雅治のあやすような声と名前ちゃんの「いたい」「さわっちゃやだ」という泣き声が聞こえた。痛いという事は、やはり何処かを怪我したのだろうか。


『左の頬を押さえたまま泣いちょる。触ると嫌がるが、傷は見えん』
「口の中はどうだ?」
『…無い、と思うぜよ』


携帯を耳に宛てたまま、コートと車の鍵を掴んで立ち上がる。
心配そうに俺を見上げる息子の頭を撫でて「雅治おじさんの家まで行ってくる」と言ってから玄関に向かった。


「近くに何か危ないものは?」
『ボウルくらいじゃ。あと…桃』
「桃?」
『ぐずるから食わせてやろうとしてテーブルに置いておいたんじゃが、何か虫でも付いてて刺されたんじゃろうか…』
「…」


まさか。


「仁王、名前ちゃんに桃を触ったかどうか聞いてくれ」
『は?』
「それが原因かもしれない」
『桃がか?』
「桃に頬擦りをしなかったか?」
『…名前、桃に触ったんか?』


少し落ち着いたような名前ちゃんの鼻を啜る音が近くでした。きっと雅治に抱かれているんだろう。


『…すりすりしたら、ほっぺがいたいの…』


「…そうか…」
『参謀、どういう事じゃ?』
「桃は手で触ると柔らかいが、皮は細かい棘で覆われている。
頬などの刺激に敏感な皮膚で触るとその棘が刺さるから痛くなるんだ。特に子供は皮膚が薄いから尚更だ」
『どうすればいいんじゃ、この痛がり様はそんなモンじゃない気がするんじゃが…』
「心配だろうが、こればっかりは自然に抜けるのを待つしかない。痛みはあるが我慢させてくれ」
『そうなんか…』
「とにかくあまり頬に物が当たらないようにして、数日経てば痛みも引くから安心しろ」


仁王は心配そうな声のままだったが、ありがとうと言って電話を切った。俺も車の鍵をコートのポケットに入れて、玄関に踵を返す。靴を脱いでいると、息子が奥の部屋から走ってこちらに向かって来た。


「おとうさん」
「ああ、どうした?」
「名前ちゃん、どうしたの?」
「お前が昔やった事と同じ事をしたそうだ」
「?」








慌てて柳生に電話したのを思い出したよ。





END.

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マジ桃強いっすよ。



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