※R-15
※暴力表現有り




















家に帰る。玄関マットがズレていたので直してから「ただいま」と声を掛けるが無反応。

気にも留めずにリビングに行くと散らかり放題。割れた食器、倒れた置物、引きずり落とされたカーテン。テーブルクロスが真っ二つに裂けて花瓶の水が床に零れていた。

今日はまだ被害が少ない方。とりあえず部屋をこんなにした源を探す前に着替えたいので寝室に入った。


「おかえり」


そこに源がいた。ベッドの上でにっこりと満面の笑みを浮かべながら俺を見ている。その小さな手には不釣り合いな布切り鋏。


「ただいま」
「永四郎、浮気した?」
「していませんよ」


何時もの問いに何時もの答え。
俺はスーツを脱いでハンガーに掛ける。ワイシャツを洗濯機に入れに行こうとした時、それが口を開いた。


「帰り、遅かったね」
「今日は会議だと出勤前に言った筈ですが」
「浮気してたんでしょう」
「していません」
「嘘だ」
「本当です」
「嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」
「名前」
「触らないで!!」


頬を撫でた手を叩かれる。先程の笑っていた穏やかなそれはもう居ない。代わりに、鬼のような形相で震えながら俺を見据える女が居た。


「他の女を触った手で私に触らないで!汚い!」
「触ってなんかいません」
「私の永四郎に言い寄ってきた女は何処のどいつよ!結婚式に来てたあのアバズレ女!?」
「名前、俺の話を」
「随分と祝福するふりが上手いのね!男に擦り寄るしか出来ない雌豚の癖に大した演技力だわ!」
「煩い」


右頬を容赦なく叩く。思わず利き腕で叩いたものだから、名前の体がベッドから浮いて床にダイブする。鋏が大袈裟な音を立てて俺の足元に落ち、くるくると回った。


「声が大きいですよ。それに、有りもしない事で口汚い言葉を吐くのもお止しなさい」
「だって、永、四郎が。浮気」
「していないと言っているでしょう」


髪を引っ張って顔を上げさせ、次は逆の頬を叩く。加減したせいか今度は彼女が吹っ飛ぶような事にはならなかった。


「永、しろ。永四郎…」
「どうして分からないの。俺の妻なら毅然としていなさいと常日頃言っているでしょうが」
「ごめ、んなさ…」
「いい加減学習しなさい。俺は馬鹿が嫌いですからね」


そう言えば一層体を震わせて脚に縋り付く名前。そして嫌いにならないで、捨てないでとわんわん泣き出した。


「嫌なら可笑しい言い掛かりを付けるのを止めなさい。いいね?」
「わか、分かった…!分かった、から…名前をっ、嫌いにならないで…!」
「ええ、聞き分けの良い名前は大好きですよ」


しゃくりあげる名前を抱き寄せて、背中を摩る。俺が名前を捨てるなんて有り得ないんですよ。優しかった名前をここまで壊したのは俺なんですから。



「明日は休みですから、食器とテーブルクロスを買いに行きましょうね」



だって泣き喚く君が、







いちばんきれい









END.

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そんな事より残暑が厳しいですね。



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