「しら、いしくん」






見なければ良かった
行かなければ良かった



あれは、白石くんが私の机で、私、の制服を掴んで、綺麗な顔を歪めながら、何かを握って、何を、



男性経験が無い私も、白石くんが厭らしい行為に耽っている事は分かった。頭の先から爪先まで冷えていくような不快感。吐きそう、涙が滲む。白石くん。なんで、どうして…

「今までの嫌がらせも全部白石くんなの?」という言葉が出なくて、私はただ白石くんから目が離せずに立ち尽くしていた。


「なぁ、名前」


息を乱したままの白石くんがこちらに振り返る。白石くんの目は私を見ていない。見ていないのに怖い。思わず後退ったが、彼の手が私の手首を捕らえて引き戻される。


「ひっ…」
「もっと見てくれへん?」


白石くんの手の平は濡れていて、ぬるぬると私の肌に絡み付く。更に強い吐き気がした。


「あ、止め」
「もっと近くで見て」
「白石くん、なん、で」


何でこんな事。白石くんは私の問いに答えてはくれない。我慢出来ずに、遂に涙が零れた。


「テニス部の部室行こ、そこなら声出してもバレへんから」
「や、嫌だ…!やだよ…!」
「名前の肌、すべすべやな」


最終警告。脳内で悲鳴を上げるサイレンが私の脚をつき動かすのに、白石くんにがっちりと捕まれた腕は動かなかった。
更に白石くんの右腕で体全体を捕まれたと思ったら、手首を掴んでいた手は私の口を覆う。


「や…止めて、離し、んんん…!」


独特の青臭い匂いが鼻を抜ける。むせて涙がとめどなく溢れた。白石くんは笑いながら私を引きずって行く。
いくら体を捻っても体格差がある白石くんの腕から抜け出せない。嫌だ、怖い怖い怖い怖い怖い怖い…!!



白石くんが口を塞いでいた手を離して鍵を開ける音がした。扉が開く。そこで「誰か」と声を出したが、再び白石くんの大きな手が私の口を塞ぐ。



「ああああ…名前…!」



歓喜の声、なのか。笑みを浮かべたままの白石くんの唇がぬらぬらと光っていて、私はもう逃げられないのだと悟った。追い討ちをかけるように、カチリと鍵が閉まる音が鼓膜を突き刺す。


「な、な。名前見て…!」


手首をぐいぐい引っ張って私を座らせた白石くん。私の前に立ち、目の前で再び手を動かし出した。スローモーションのようにゆっくりと。


白石くんに不釣り合いなグロテスク過ぎる「それ」が目の前で音を立てて、目線を上げると白石くんが笑いながら私を見つめていた。

気が狂いそう。頭が痛い。白石くんの荒くて熱い吐息が聞こえる度、指先が冷たくなっていく。恐怖で歯ががちがち鳴った。


「名前見て。あっ、俺のっ、見て」


壊れた機械みたいに繰り返し私の名前を呼ぶ白石くん。初めてお話したのがこんな場面なんて想像してなかった。どんどん熱を帯びる部屋の空気と比例して、白石くんの口調も声も強くなる。


「好き、好き、好きや名前好きや!!あっあっ、愛しとる!ちゃん、と…名前にあげるな、俺っ、の愛…ん…、可愛い顔にあげ…っ、ああっあ…!出る…!」


「白石くん」





名前を呼べば、私の憧れの彼が帰って来るかもしれない。そう思った私も既に狂っていた。










目の前で飛び散る現実が重くて。









END.

**********************

大体謙也のせい。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -