「…まだ?」
「まだです」
「もう30分経ったよ」
「それが何か」
「あと30分…木手が髪型のセットに掛かる時間たい。」
「貴女それが言いたいだけでしょう」
スタイリッシュな彼
私の渾身のモノマネを一蹴した木手は目線を鏡に戻し、それを睨みながら櫛を忙しなく動かす。
もう自慢のリーゼントは端から見れば形を成していて、さっきから同じ場所に櫛を通す木手にやや苛立ちを覚える。何そのこだわり。もう行こうよ木手。折角の放課後デートなのにさ。
誰も居なくなった部室が夕日の紅で染まっていくのを眺めながら、私は椅子に座って木手を待つ。
「よし、出来ました。」
…ハッ、寝てた。
盛大に垂れてた涎を拭う。目線の先には満足そうに笑う木手。その髪型、さっき見たのと何も変わっていないように感じるんですが。
「お待たせしましたね」
「全くだよ。」
大体、ちょっと寄り道して帰るだけなのにセットし直す意味はあるんだろうか。
「木手ってお洒落だよね」
「急に何ですか」
「だって、もう帰るだけじゃん?なのに髪型セットしてさ」
「普段は直しません」
なら、何で今日に限って。
もう夕日は大分落ちてしまった。
「貴女の横に並ぶのですから、俺は貴女に相応しい姿で隣に居たいのです」
だから、今日は特別です。
そう言って背を向けた彼は、何時もの厳格な「殺し屋」と呼ばれる木手ではなくて。私の大好きな木手永四郎だ。
END.
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触るとベタつきそうですよね。
木手くんの髪。