残業が終わって帰宅。まず私を出迎えたのは、マンション入口のド派手な飾りだった。100円ショップにありそうな蔦やハイビスカスが入口を彩り、その上では

【Congratulations!】

と書かれた看板がライトに照らされている。暗い中に浮かび上がる虹色の看板はなかなか不気味なものがあって、正直ちょっと引いた。

こんなの朝になかったのに、夏休みのボランティアか何かなのかな。
っていうか何故Congratulations?何かおめでたい事があったのかもしれないが、私からしてみればこの看板の派手さがおめでたいよ。

エントランスに設置されたポストを開けると、バサッと手紙の束が落ちて来た。勧誘とか広告かと思ったけど、それは意外にも同級生からの手紙だった。


「幸村精市…ジャッカル桑原」


うわ、懐かしい。ブン太や柳生、後輩の切原くんからも来ている。真田は相変わらず達筆だなぁ…最近会ってないけど、娘さん大きくなったかな。
ヤツらは私の家にアイツが寄生している事を知っている。切原くんからも手紙が届いているのなら、テニス部関連の通達か何かだろう。落ちちゃったから多少汚れたが、まぁいいや。

エントランスを通過して階段を上ろうとした脚を引っ込める。
なにこの赤絨毯

あれ、何だっけ。国際映画祭とかで俳優とかが歩く赤絨毯が階段に敷かれていて…いや、もう考えるのが面倒になったからいいや。きっとボランティアの方々が少し酔狂じみているに違いない。

赤絨毯は階段を上がり終えてもまだ続き、私の部屋の前で途切れていた。


「…雅治の悪戯かな」


寄生虫。私はよくアイツをそう呼んで皮肉った。皮肉にしては辛辣じゃのう、と呑気に笑う仁王雅治とは、中学高校と付き合っていた元カレ。
大学に入学してから自然消滅な感じで別れて、そういう関係は終わった筈だった。

だったのに、私が実家を出てこのマンションで一人暮らしを始めた頃にフラッとやってきたのだ。どこで私が一人暮らしをしてるって知ったんだろう。


「え、雅治?うわ懐かしい」
「捨てられた」
「は?」
「彼女に捨てられた」
「はぁ?」
「まだ元カノの事が好きって言ったら殴られて追い出された」


今思えば自業自得なんだが、頬を腫らした上に無一文で涙ぐむ元カレを放って「さいですか」と扉を閉める程、私は非情ではなかった。

それから雅治は私の家に頻繁に出入りするようになり、今や完全に住み着いている。だから寄生虫。
働いてんのか働いてないのかフラフラしている雅治。決まって毎月家賃の金額を渡してくる。

…とまあこんなぐずぐずの関係を続けて早2年。何故今更こんな訳の分からない悪戯をするんだろう。昨日の晩御飯のもやし炒めが気に食わなかったのかな。


「ただいま…――は?」


ドアノブを回して扉を開けるまでは何時もの光景。でも玄関から先は未知の世界だった。

花、花、花。

床や壁一面に張り巡らされた花という花。百合の強い香りがツンと鼻をつく。私は思わず部屋の番号を確かめた。…間違い無く私の部屋。その証拠に部屋の奥から「おかえり」と雅治の声がする。ちょっとちょっと雅治。私の作るもやし炒めはそんなにマズかったか。

物凄く心苦しいが、靴を脱いで爪先で花を避けつつ先へ進む。ああ、踏んでごめんね。私がもやし炒めを上手く作れないばっかりに。







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