「弱虫名前!」
「ちび名前!こっちだよ」
「返してほしけりゃ取ってみろよ」
「あ、コイツまた泣いたぞ!」
「泣き虫!」
「泣き虫名前!」

「オイ!お前ら何してんだ!」

「…赤也だ!」
「やべ、逃げよう」
「早く行こうぜ」

「名前に謝れ!逃げんな!」











俺の幼馴染みは泣き虫だ。昔っからトロ臭くて背も小さいから、小学生の時に周りからチビチビからかわれては泣いていた。

歳は俺よりひとつ下で、名前は名前。
「赤也くん、赤也くん」と俺のあとを着いて来る名前を守らなくちゃと思ってから、もう何年経つだろうか。


「赤也くん、ごめん」
「謝んなくていいって」
「だって…副部長さん…」
「それよりさ。昔お前が泣くと、こうやって手繋いで帰ったよな」


泣き虫のくせにニコニコ笑って俺の後を追っかけて来る名前は、俺がいるからって理由でテニス部のマネージャーになった。
そんな理由で上手く行く程現実は甘くなくて、体力のない名前にとって立海テニス部のマネージャー業務は厳しかった。
…いや、名前は何も言わないがキツいに決まってる。


「え?…う、うん。そうだね」
「昔からよく泣いたよなーお前」
「…」
「責めてる訳じゃない。ごめん」


俯いてしまった名前の頭をくしゃくしゃ撫でると、大きな瞳からまた涙が零れ落ちた。

そして、名前を泣かせた真田副部長に再びちょっとイラつく。あの人が自分にも他人にも厳しいのはよく知っているし、俺はビンタされようが怒鳴られようが堪えられる。

でも「業務が遅い」と女の子を…名前を怒鳴ったのは我慢ならなかった。名前だって一生懸命やってる。それは幸村部長だって、仁王先輩だって丸井先輩だって認めてくれていた。

驚いた猫みたいにビクッと縮こまって、ほぼ直角から自分を見下ろす真田副部長を見つめながら「申し訳ありません」と小さな声を震わせた名前の手を取り、テニスコートを出た。人目なんか気にしない。


名前は俺が守らなきゃ。


「副部長さんに謝らなきゃ」
「は?お前が謝んの?」
「マネージャーとしてのお仕事が遅いのは本当だから…」
「俺は真田副部長に文句言わなきゃ気が済まないね。女の子怒鳴るなんてお前はどこの平成男児だって。」


辛いし今日みたいに泣く事もあるのに、絶対にマネージャーを辞めるとは言わない名前。そこだけは妙に頑固で、自分で決めた事は何が何でも貫き通す強さもあった。弱虫だけど。


「赤也くん」
「ん?」
「ありがとう」
「…ま、ごめんねよりは良いか」
「私もっと頑張るね」
「頑張らなくたって、ただ一生懸命やってりゃ十分だ」







「何取られて泣いてたんだ?」
「うっ…赤也くん、に、もらった…グスッ指輪…」
「こんなの、またやるから逃げれば良かったのに」
「やだ。これが…いい」






夕日が綺麗で、不意に名前のお母さんが作る唐揚げが食べたくなった。今日遊びに行こうかな。
背景も名前と繋ぐ手も変わらない。俺の決意も、何一つ変わってなんかいない。

俺が名前をずっと守ってやる












泣き虫なお姫様と優しい悪魔







END.

**********************

「ほんと弦一郎って空気読まないよね。名前を怒鳴るなんて二度と、絶対、金輪際させないから」
「レディを怒鳴るなんて男性としてあるまじき行為です」
「名前泣いてただろぃ!」
「プリ」
「明日名前に謝れば許してくれる確率は89%まで上がるぞ」


名前ちゃんを泣かせた真田を待っていたのは厳しい攻撃でしたとさっていうオチ。



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