…まただ。
もう慣れた事だった。
四天宝寺中に転校してきて半年、
私へのイジメはおさまるどころか、エスカレートしていっていた。
≪意地っ張り同士≫
黙って我慢していればいつかおさまる。
そう思って我慢していた。
無感情にしていたら飽きるだろうと思っていたのだが、その考えは間違っていたようだ。
…そんなことはもうどうでもいいか。
今は目の前のこれだ。
今回はノートと机。
あと、おそらくいつものように外靴もだろう。
怒りは十分に感じてはいるが、相手を煽らないためにも我慢してきた。
しているつもりなのだが、手が震える。
怒りを抑える度に、涙が出た。
何が悲しい訳でも、悔しいわけでもない。
行き場の無い怒りが涙になっているだけだ。
こんな無感情に流れる涙、誰かに見られたら弱いみたいじゃん。
イジメされて泣くことしか出来ない奴だと思われるじゃん。
そんなのは、いやだ。
さっさと片付けよう。
ノートを適当に鞄につっこみ、机に書かれた落書きを消す。
落ちんなよ涙。
消しゴム滑るじゃん。
不意に、後ろで音がした。
部活も終った後のこんな時間にいったい誰だろうか?
先生か?
いや、そんなのはどうでもいい。
理由はどうあれ、私は泣いている。
顔は見られたくない。
顔は向けず、大体消えた机の上を片付ける。
「ん?名前か。こんな時間まで何しとんねん」
声でわかった。
同じクラスの一氏ユウジだ。
いっつも部活で毒舌吐いたりちょっかい出してくる奴だ。
なんでこのタイミングで来るんだよ。
さっき小春と帰ってたじゃん。
「別に、忘れ物取りに来ただけだし。」
そっけなくしておけばユウジなら興味を無くしてにすぐ帰るだろう。
「その割には結構長い間探しとるんやない?
見つからないんか?」
よりによって気にすんなよ。
「一回帰ってから取りに戻ってきただけ。
ユウジこそ忘れ物ならさっさと取って帰ったら」
いいから早くどっか行ってほしい。ユウジがきてから一度は堪えた涙は、今にも目から滑り落ちそうだ。
「何やその言い方。
そんな言い方せんでもええやん!
いいから、一緒に探したるわ。
何無くしたん?」
ナチュラルに近づいてきて、顔を覗きこまれた。
もうだめだ
一粒、ぽたり・と落ちた涙は次々と落ちる。
止まらなかった。
顔を伏せて見るが、涙は止まる気配はない。
あぁ。最悪だ。
もう気にしないでどっかに行ってくれ。
ふと、顔に布が触れた。
いや違う。抱きつかれて…る?
「ち…ちょ…何して…――」
「…気づかんでごめんな。
今度からちゃんと守ったるから」
同じクラスなのに、ごめんな。またそう言ってユウジは謝った。
顔を見られたくなくて思いっきり抱きつく。
いつもそっけないクセに、ここで優しくするなんて反則だ。
小春「ちゃんと言えたん?」
ユウジ「…そこまで言えんかった」
小春「…チャンスやったんに」
END.
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イジメに気づいてた小春がユウジに後押ししてあげたようです。