「ようよう雅治!どうなってんだい君の相棒は!」
「なんじゃ急にー」
「柳生くんだよ柳生くん!あのジェントルメンには恋心ってモンがあるのかい雅治よ!!」
「プリッ」






















「だからあんな堅物やめて俺にしろって言ったきに」
「何今更。あんたただの幼馴染じゃん」
「酷いナリ」
「あーもう、どうして気付いてくれないんだろう…」


放課後の教室、目の前で頭を抱える幼馴染を本気で可愛いと思った。
同時に、こんなに名前に好かれている自分の相棒がとても羨ましくなる。


「俺はちゃーんと分かってるぜよ」
「何が?」
「お前さん、スカート丈を長くしたじゃろ」
「…雅治に気付かれても嬉しくないのにー」


それだけじゃないぜよ。お前さんは柳生の好みに合わせて前髪をちょっとだけ切ったし、香水も変えたな。
ちょっと前にお揃いで買ったシルバーネックレスも、最近は全然着けちゃいない。


「のう」
「ん?」
「昔みたいに、まーくんって呼んでくれんかの」
「何さ急に。彼女に呼んで貰いなよ」
「彼女なんかおらんもんー名前じゃなきゃ嫌じゃー」
「めんどくせーコイツ」


ほんとじゃ。全部ほんと。
彼女なんていらない。欲しいのは名前だけなんじゃ。
高望みなんてしない、欲しいのはお前だけじゃ。


「あっヤバい」
「ん」
「柳生くんが生徒会室から出て来る時間だ」
「マメじゃのー」
「あったりまえでしょ」


「じゃあね、また明日」と言って出て行く名前に、手を振っている自分。そんな自分が酷く滑稽で…


「詐欺師よりも道化師みたいじゃ」


そう言いながら喉を鳴らして笑った俺は、ワイシャツの上からお揃いで買ったシルバーネックレスをそっと撫でた。度胸の無い、意気地の無い、ただの弱虫なピエロ。
「また明日」と言う名前の言葉はこの先もずっとずっと続いて、「明日も明後日もその先もずっと」

「幼馴染」




嫌だ。そう、シンプルな答えがそこにあった。俺は立ち上がって滑るように廊下を駆け抜ける。名前は右の廊下を歩いていった筈だ。なら俺は反対から


「こっちを走って中庭を抜けた方が、生徒会室は早いぜよ」




見えた。生徒会室の扉から出てくるのは、俺の相棒。名前の想い人。


「柳生」
「おや、仁王くん。廊下は走ってはいけませんよ」


背中を夕日に照らされた柳生は、息を切らす俺を笑いながら咎めた。相変わらず、その瞳の奥は俺にすら見えない。


「名前は渡さんぜよ」
「え?」
「宣戦布告ナリ」


笑みを湛えた顔が、驚いた顔に変わる。その瞳に何が映っているかなんて俺は知らん。でもここで名前をコイツに譲るわけにはいかんのじゃ。もしその瞳に名前が映ったとしても、俺はお前から名前を奪い返しちゃる。


「スッキリしたから俺は帰るぜよ」
「ちょ、ちょっと仁王くん」


戸惑う柳生を無視してまた一目散に教室へ戻る。なーんだ、初めからこうしておけば良かったんじゃ。今まで悩んで損したのう。教室で鼻歌混じりに名前の携帯へコール。お、繋がった。


「柳生には会えたかー?うん、そうけそうけ。いや、ちゃんとお前さんに用があるんじゃ。俺の奢りでクレープ食べに行く人ー!…え?いやホントじゃよ。今?教室におるよ」


おまんには負けんぜよ、柳生!






END.

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「仁王って遊び慣れてそうで実は全く慣れてなかったら可愛いなぁ」
と思うんですが、私だけですか。


 


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