俺は向日岳人。ちょっと意味が分からないかもしれないが、結論から言わせてくれ。


侑士の自転車の荷台から尻が離れない。



















放課後、俺は親友の侑士と一緒に帰ろうと思って、先に自転車置場に向かった。
侑士は跡部に呼ばれてて、どうせ直ぐに来るだろうと思ったんだ。

侑士のピカピカの自転車。その自転車の荷台に勢い良く座る。そこは俺の特等席で、俺は大人しく横向きに座って侑士を待っていた。いや、待っていたかった。

座った途端に尻に感じる違和感。俺は「何だ?」と思って荷台から腰を上げた。これも否…上げたかった。


俺は腰を上げる代わりに、
荷台にがっちりと固定された自分の制服を二度見した。
何かに引っ掻かっている、とは思わなかった。何と言うか、もう尻全体が荷台から離れない。停めている自転車の荷台にちょっと乗るつもりだったから、足が変に爪先立ちなのが辛い。プルプルしてる。何だよこれ、なんでこんな事になってんだ。

とにかく荷台から離れるのが先決だと考えた俺は、思い切りサドルを握り締めて力を込めた。


「ふんっ」


まだ動かない。なら…


「ふんっ!」


まだ駄目か…!!これでどうだ!!


「うぉりゃぁぁぁ!!」


ビリッ


俺は動くのを止めた。


大人しく侑士を待とう。侑士は頭が良いから、きっと助けてくれるはずだ。ズボンは帰ったら母ちゃんに縫って貰わないと。


「ふふふ…馬鹿め。まんまと私の策にかかったな!」
「は?な、何だ?」


自転車置場の入口に佇む女。俺はそいつを知っていた。同じクラスの名前だ。そして、侑士の彼女。


「何でお前がここに…」
「侑士は今日自転車で来てたからね。岳人が来る事は分かってたよ。」


近寄ってくる名前の手には、瞬間接着剤。…まさかこいつが!?


「私はアンタに復讐してやったんだよ!復讐一発目で引っ掛かるなんて、正に愚の骨頂!」
「お、俺何もしてないだろ!」


カッと開かれた名前の目。俺は蛇に睨まれた蛙のように縮み上がった。


「侑士」
「は?」
「アンタ私の侑士を独り占めし過ぎなのよ!!」
「…はぁ?」
「休み時間に侑士と話したくてもアンタが先に居るし、昼休みもそう。更には部活も放課後も一緒だなんてズルいわ!!ううんズルいなんてもんじゃない!!もうこれは犯罪よ!!!」


一気にまくし立てる名前の顔が般若みたいに歪んでて、俺は若干漏らしそうになった。一方、尻が固定されたまま般若と睨み合うこの場面を、誰かに見られたくないなと冷静に考えていた。


「だから復讐したのよ。アンタはここで尻を荷台に固定され続けるがいいわ。アンタの代わりに、私が侑士と帰るから。」
「お、おい名前!!」


最悪だ。最悪な事に名前は踵を返して自転車置場から遠ざかって行く。去り際、名前の般若フェイスはいつもの侑士を見るみたいな優しい顔になっているのを俺は見逃さなかった。


「お、俺だってな…!!」


焦りと恐怖、勢いに任せて俺は口を開いた。


「俺は侑士の親友だぞ!!お前だって休みの日に侑士と遊んでるだろ!!そのせいで俺は最近侑士と休日遊べなくn」
「はぁ?」
「なんでもありません」


般若からなまはげフェイスに進化した名前に勝てる訳が無かった。咄嗟に逃げようとしたが、尻が固定されてるせいで後輪にガツガツと虚しく脚が絡まるだけだったし。くるぶしが痛い。

 
また完全に一人になった俺は、その後侑士が自転車を取りに戻って来る事をうっすら期待していた。
しかし名前に丸め込まれてそのまま帰ってしまったのか、その後自転車置場に来た人間は…



「向日さん、何やってるんですか」



自分の自転車を取りに来た日吉だけだった。






END.

**********************

「何遊んでるんですか」
「遊んでねーよ!助けてくれ!」
「面倒事は御免です。じゃ」
「ま、待て!待ってくれ日吉!」



元ネタは親愛なる友人R氏。
侑士出て来ないところが岳人夢だけに話のミソ。(…)


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