「あ、あのね一氏くん」
「なんや、改まって」
「えっと…実は」
俺の好きな子には、好きな奴がいる
お願い誰か
部活のない放課後、小春の生徒会が終わるのを待っている時間。
その時間が堪らなく退屈で。偶然教室にいた名前に声を掛けたのが始まりだった。
ちょっとずつ話をするのが楽しくなって、「好きな人がいるんだ」と話をされた時に、心がチクリと痛んだ。その場はいつも通りの会話が出来たけど、家に帰っても食欲がなかったから多少なりともショックだったんだと思う。
(実感、沸かへんけど。)
しかし、やっぱり好きな子には幸せになって欲しい訳であって。
俺は知ってる事を全部名前に教えてやった。そいつの好きな音楽とか、そいつの好きなタイプとか。
うんうん頷きながら必死にメモを取る名前が可愛いくて、でもそれは俺に向けられた恋心じゃなくて。
(いや…堪えたんちゃう。怖くて言えなかっただけや。)
「今度こそ、告白したいな…って」
今日名前の口から出た言葉に、「なんで」と詰め寄りそうになるのを俯いてぐっと堪えた。
俺は、完璧に名前の良い相談相手の一氏ユウジを演じると決めたから。
「ええやん。結構仲良うなったんやろ」
「やっぱり怖くて…」
俺も怖い。俺は結果が分かってるから。玉砕する事が分かっているのに自らぶつかってくアホがいて堪るか。
「そんなん、ちょっとの勇気や」
「そうかな…」
「お前なら絶対上手くいく」
「俺がアドバイザーやで」そう言って名前の背中を押す。俺が作れる精一杯の笑顔を向けて、好きな子の背中を別の男に向けて後押ししてやる。玉砕するアホよりも、もっとアホや。俺は。
「一氏くん、ありがとう」
可愛い笑顔を向けて、名前は走っていった。行き先なんて決まっている。きっと上手くいく筈だ。
だって、俺が背中を押してやったんだから。
本当に自分は馬鹿だと思う。結局、俺は怖かっただけだった。
今の関係を壊したくないから、上手いポジションに座り込んだまま動けなかった。名前にも言った「ちょっとの勇気」も何も無い、ただのアホな男だ。
「……ッ!」
恋に破れるとは、こんなに痛いものなのだろうか。溢れる涙を必死に拭いながら、きっと明日は笑顔で報告に来るであろう好きな子の事を想った。
誰か、このアホな男の背中を押して下さい。「ちょっとの勇気だ」と渇を入れて下さい。
END.
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ハッピーエンドにしろって緋乃から言われてたの忘れてた。イップスにされる。