「景吾、早く頼んで来なよ」
「アアン?何をだ」
「ドーナツ屋に来てんだからドーナツに決まってんでしょ。私もう頼んだから先に座ってるよ」
「お、おい名前…」




























 
俺様は跡部景吾。跡部財閥の御曹子で、眉目秀麗・スポーツも勉強も出来る。則ち我が氷帝学園のキングだ。長くなるので、俺様の自己紹介はこの辺りで割愛させて貰う。


学園で俺様に夢中な五万といる雌猫なんぞ興味は無いが、唯一この俺様の心を射止めた女がいる。そう、テニス部マネージャーの名前だ。

「おいそこのマネージャー!俺様の彼女にしてやる!!」という俺様の有り難い告白を「え、嫌だ」
とそれはそれは不快な顔をして断りやがった面白い奴だ。

そんな名前は、今この「ドーナツ屋」とかいう所まで俺様を引っ張って来て、さっさと席に座ってしまった。一番奥の席で、こちらを見ながら何やら笑っている。

…なるほど、分かったぜ名前。
これがデートだな

恥ずかしがり屋のお前は、俺様に面と向かって「デートしよう」とは言えないから、わざわざ俺とこの騒がしいドーナツ屋に来たんだ。可愛いじゃねぇの、アーン?
確かに部活が終わって小腹も空いたし、庶民の味を嗜んでみるのもいいかもしれないな。

俺様はドーナツが並ぶガラス張りの棚に向き合った。店員らしき女がこちらを見ている。


「いらっしゃいませ」


…これはどんな風に頼むものなんだろうか。
この女に食いたいドーナツを言えばいいのか?よくよく見れば、棚にドーナツの名前らしきものが書かれている。学食のようなバイキング形式でもないようだし、きっとそうだろう。



「おい雌猫」
「はい?」
「アーン?」


頼み方が違ったのだろうか。…やはり自分で取るものなのか?
しかし今更後には引けねぇ。何が何でもこの店員に取らせる。


「ドーナツを寄越せ」
「しゅ、種類はお決まりですか?」
「アーン?」


何だよ種類って。
…ああ、このドーナツの名前の事か?



「おーるどふぁっしょん」
「おひとつですか?」
「まだ食うに決まってんだろ」
「おふたつですか?」
「アーン?」


何だこのシステムは。ひとつの種類しか頼めねぇのかよ。俺はこのオールドファッションというフワッフワの奴を複数食うしかねぇのか。チッ、面倒臭ぇ。


「ならこのトレイの全部くれ」
「えっ?」
「アーン?」


 俺様は「ごーるでんちょこれーと」という奴も食べたかったが、決まりなら仕方ねぇ。あんまり無理言うと名前に怒られるしな。

チラッと名前を見ると、
何故か腹を抱えて爆笑していた。


「こちらでお召し上がりですか?」
「この場で立ってか?座らせろ」
「え?」
「アーン?」
「ブフォア」


背後から名前が吹き出す声がした。きっと雌猫店員が意味の分からない事を言い出したからだろう。名前がいるんだから座るに決まっている。


「い、以上で宜しいですか?」
「ああ」


俺様は早く名前と座って話したいんだ。少し急いでカードを取り出す。


「ポイントカードはお持ちですか?」
「アーン?」


何だよポイントカードって。意味が分からないのでとにかく早く支払いを終わらせたい。名前と楽しく話しをするんだからな。


「持ってねぇ。支払いはカードだ」
「当店では支払いの際にクレジットカードをお使い頂けないんですが…」
「アーン?」


ふざけやがって…ポイントカードは使えてクレジットカードが使えねぇなんて俺様は意味が理解できねぇ。どっちもカードじゃねぇの。


「すいませんご迷惑かけて。私が払います。」
「名前…」


マスカラが少しだけ溶けている名前が、俺を遮って財布から金を出している。男として恥ずかしい話だが、カードが使えねぇんじゃ仕方ねぇ。後からお礼にたっぷりとプレゼントを送ることにしよう。しかし本当に気の利く利口な女だ。


「おい名前、欲しいものは何だ」
「ないよ。それに良いもの見せて貰ったからお返しはいらない」
「イイモノ?」
「うん、景吾の…ブフォ


ドーナツ屋の奥の席でミルクティーを噴出す名前も可愛い。
明日部員全員にデートした事を自慢してやろうと決めた。






END.

*******************

「ギャハハハハ!!見てこの写真!!何回見てもこの景吾の後姿笑える!!」
「レジで佇む跡部…」
「…シュールやなぁ…」


「跡部と一緒にファミレスとかマック行きたい」と話していた結果がこれだよ。
勿論愛故だよ跡部。



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