俺の可愛い妹、名前が「大学生になるから一人暮らしする!」なんて言い出した時、俺は世界の法則が乱れる程の駄々っ子っぷりを見せた。
「おまんは行かさんぜよ」という詐欺師の台詞を頭の中でリピートさせながら、しつけのなっていない子供みたいに床を転がったあの日。
しかし大学が家から遠い事もあって、両親は俺を放置して名前の言い分を受け入れた。
お兄ちゃんは認めません!!
俺は今、名前の住む賃貸マンションの前におる。昨夜の事や。俺は「名前が心配だ」と両親に再三駄々をこね回し、母親が預かっていた名前の部屋の合い鍵を手に入れた。
まあ、今日は日曜日。大学も休みやし、きっと家におるやろ。
おらんでもお邪魔するけど
チャイムを押す。
…ああ、なんやドキドキしてきた。
髪型整えとこ…と散々梳かした髪を撫でているうち、パタパタとスリッパの音が聞こえた。
よっしゃ!名前がおる!
うわぁ…一ヶ月ぶりの名前や。何て挨拶しよう…!ア、アカン!緊張してきた!
「名前!会いたかっ…」
「……はい?」
「え、誰お前」
名前を一瞬でも早く見ようと覗き込んだ扉からは、不機嫌そうにこちらを睨み付ける男がおった。俺は「ど、泥棒ー!」と叫んでやろうかと思うたが…よくよく見れば、俺はその男に見覚えがあった。
「…光?」
「…どうも、部長」
四天宝寺中学校の後輩、財前光。
昔から開いとったピアスは健在で、俺よりも低かった背は生意気にもちょっと差を縮めたようやった。
い…いやいや、そんなんはともかく!!
「何でここにお前がおんねん」
「部長こそ、こんな昼前に何の用っすか」
おん、全く変わってへん。この他人を斜めに見る態度といい、不機嫌そうに寄せられた眉の皺といい、なっんも変わってへんな、コイツ。
「可愛い妹を心配して、様子を見に来たんや。」
有給取ったんやで。俺がそう得意げに付け足すと、あくびをしながら奴は言った。
「名前なら、サークルの見学で大学に行きましたわ」
「おまっ!何うちの妹呼び捨てにしとんねん!!…大学?」
「…そっす」
あからさまに「うっぜぇ」という顔をして、光は頷いた。こいつのピアスいっこ引きちぎってやりたいわ。
「…入ります?昼には戻る言うてましたから」
俺の返事を聞かずに、扉の奥に引っ込む光。お前の家ちゃうやろ、という言葉をぐっと飲み込んで、俺は部屋に入った。
そして深呼吸
スーハースーハーんんーっ…!!これや!!久々のスーハースーハースーハー名前の匂いや!!正に絶頂!!ええ感じや名前!!スーハースーハー
「…」
「うっわぁ」と顔に書いてある光を無視して、俺は部屋を見回す。ピンクの可愛らしいカーテンに、小さい白のソファ。名前らしいインテリアに、俺は笑みを零す。光が部屋の一角にある小さな座椅子に腰掛け、パソコンの電源を入れた。
「そういえば光、さっきはぐらかされたけど、お前なんでここにおんねん」
「…俺は別にはぐらかしてな…まぁええけど…。俺、ここに住まわしてもろてます」
「おおおおおおおお兄ちゃんは認めませーん!!!」
光に高速でクロスチョップをかました俺は、勢い余って壁に頭を打ち付けた。ガンガン鳴る脳内で、同じように光の言葉が鳴り響く。そ、そんな、嘘やん。なんで光が。
「…いってぇ」
あれ、あんまり光にダメージ与えられんかった。俺の腕も鈍ったもんやな。誰か毒手持ってきて。
いやもうむしろ俺を毒に冒して。可愛い名前と後輩がいつの間にか同棲だなんて考えられへん。
「ただいまー」
「お帰り、部長来とるで」
「お兄ちゃんが?」
「名前!!!ちょっとここに座りなさい!!!!!」
END.
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あれ…なんかグダッグダだ。
補足ですが「光はちゃんと家賃も光熱費も払ってる」っていうどうでもいい事まで考えてました。