おはようダーリン。

ああ、今日も素敵。整った顔で私に笑い掛ける。その綺麗な顔が苦痛に歪みますように!
私はそう祈って笑い返す。


「おはよう」
「おはようございます」


並んで登校。少し眠そうなダーリンの話に相槌を打ちながら、思い出すのはあの試合。

後半戦はとっても良かったわ。必死にボールを追いかけるダーリン。
転んで汗まみれになって、あちこち傷だらけ。綺麗なお顔が屈辱と怒りにまみれて、深い皺が眉間に刻まれていたわ。ええ、全部覚えているの。

体が疼いて仕方なかった。自分でも驚くくらい興奮したわ。
大声で笑いそうになったのを、口元を押さえて我慢した。きっと、大切な彼氏が傷つくのを見ていられない健気な彼女に見えたでしょうね。私は上機嫌よ。


「寂しいわ」
「また放課後、会えますよ」


学校に着いて、いつもの台詞。
もっと私を見下して。
ダーリンの支配下に置いて頂戴。

玉座に座った貴方の喉元で、涎を垂らしながら下品に笑う雌猫の私。いつでも喉に噛み付ける位置。
私を支配していると思い込んでいるダーリンは、首を絞められている事に気付かない。

…ああっ!可愛い!!


「よう。木手、名前」
「ごきげんよう」


えっと、何ていったかしら。ダーリンと同じテニス部の人。この人とは特に話す事もないので、そのままお辞儀をして退散。


放課後までさよなら
愛しているわ、ダーリン




退屈な授業がもう直ぐ終わる。自分の手元を見つながらダーリンを思い浮かべた。
…そういえばダーリンの爪はとっても綺麗なの。

触れたい、撫でたい、舐めたい。

もしダーリンの爪が伸びていたら、今日切ってあげよう。切った爪は大切な宝物にしたいわ。


お昼休みにそっとダーリンの教室を覗く。何時も直ぐに気付いてくれるのだけど、今日はちょっと間があった。

5秒。

今日もダーリンやテニス部のお友達の周りは、妙な雰囲気の女が沢山いる。当然ダーリンはそいつらを無視しているけど。

私はその雰囲気を知っている。取り入れて欲しい、特別になりたい色気づいた咽返る雌の匂い。

無駄なんだよ、この恥曝しども。ダーリンは私のものだ。


「…名前」
「来ちゃった」


私に駆け寄るダーリン。周りの雌どもが一斉にこちらを見る。ざまぁみろ!!

口角が歪んで吊り上がるのを抑えきれない。お前達が一番欲しい位置は私だ。木手永四郎の彼女の位置は、この誰でもない私。

嗚呼、可哀想なダーリン。無下に吐き出された雌どもの香水や色香が移ってしまっている。後で綺麗にしないと。




「今日も遅くなります」
「教室で待ってるわ」



放課後の廊下、申し訳なさそうに眉を下げるダーリンにぞくぞくする。あ、爪を確認しないと。…綺麗に切ってあった。心の中で舌打ち。

ダーリンは私をちょっと抱き寄せてから直ぐに離れ、そのまま歩いていってしまった。
昼の雌どもの臭いがするかと思って体を強張らせたが、ダーリンからはいつもの香水の香り。もっと嗅いでいたい。


…さて、今日は何をして暇つぶしをしよう。









「…本当に、毎度ながら素晴らしい演技力ですね」


どちらが上でしょう
ダーリンが部活へ向かいながら言った独り言は、私には聞こえない。






END.

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お互いがお互いに依存している状況が非常に好きです。
真の腹黒はどっちかな?


 


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