「名前」
「はい幸村さま」
「顔を上げなよ」

私、絶賛土下座中。







study!study!study!






経緯は昨日の放課後に遡る。テニス部のマネージャー業務を終え、部室に鍵をかける。さぁ帰るか…と扉に背を向けたと同時に思い出した。


「精市の伝言…」


部員に伝えておいて欲しいと言われていた伝言があったのに、ミーティング後に伝えるのをすっかり忘れていた。

危うく幸村に怒られるところだった…と、私は携帯でメールを打つ。こういう時にすごく携帯は便利だ。


一斉送信…よしOK。
これがいけなかった。


帰宅途中に鳴る携帯のバイブ
見ると、新着メールが4件。

部員が了解メールを送ってくれているんだな…と深く考えずに、私は地下鉄の電車の中、降りる駅まで眠りこけた。


…涎を脱ぐって地下鉄から降りる。
携帯には新着メール9件と、着信が4件。

…着信?履歴を見る。柳生、柳、ブン太、仁王だ。
テニス部から…?さっきのメール、抜けている部分があっただろうか。

送信メールを確認してみる。


【宛先:レギュラー全員】
【件名:連絡忘れてた!!】

あ、しまった。精市にまで送っちゃったんだ。明日怒られるかなぁ…


【本文:精液からの伝言!
明日朝練は30分早く始めるって!】


殺されるかなぁ…





……という訳で、私は昨日帰宅してから土下座の練習に励んだ。いい汗をかいた。正に青春。

そして、朝に正門から来る精市目掛けて土下座をした。名前冬の土下座祭開催。少し湿った冷たいアスファルトに額を擦りつけ、精一杯叫ぶ。

「幸村さま!!申し訳ございません!!」



「…だから、顔を上げなよ名前」
「いいえ無理です(怖いから)」
「俺、怒ってないよ」


やはり私の送ったセクハラ猥褻メールをご覧になっている。それで怒らないわけがない。私はアスファルトとキスするような意気込みで地に頭を着け続けた。ブラジルが見えそうである。


「間違えたんだろう?」
「その通りで御座います。普段からあんな隠語を使っているわけではなく、急いで確認もせず送ったものですからあんな想定外の出来事に…!!決して!決してわざとでは!!」


私、子供が斬首されるのを役人に縋り付いて許しを請う、時代劇のお百姓役にぴったりかもしれない。パニックになって訳の分からないことを考える私の肩に、精市がそっと手を置く。ちょっと走馬灯が流れた。


「ほら、いいから行こう。練習に遅れてしまう」


ほ、本当に怒って…ない?
呆ける私にニコリと笑いかける精市。ごめん、怖い。


「練習が終わったら勉強だね」
「え」
「俺の名前の勉強」


精市が差し出したのは、ルーズリーフ。取り外しが出来る分厚い用紙だった。


「俺の名前を、最初の1ページの上からビッシリ全ページ書いて放課後に提出して。」


やはり怒っていらっしゃる。


その日の夜、利き手の手首し貼った湿布の匂いと、目に浮かぶ幸村精市の漢字に永遠に付き纏われる夢を見た。





END.

****************

名前間違えてごめんね幸村。
…あれ、なんだか感触が無く…

 


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -