「…アカン、謙也」
「どないした?白石」
「縦笛忘れてきた」
「音楽の授業、縦笛のテストやで」




「どないしよ…あ、ちょっと隣のクラスの名前ちゃんから縦笛借りて来るわ。
「お…お前ワザと忘れて来たやろ!!あ、ちょお待ちや白石!!」


















移動教室の途中、無駄の無い動きで謙也を振り切った俺は、例えようの無い高揚感に包まれていた。我ながら完璧な作戦や。イッツパーフェクト。

…ん?謙也が言うようにワザと縦笛を忘れたかって?そんな訳あらへんやろ。
道頓堀川にブン投げたんや。

そこまでやった勇者だけが、学年1モテる名前ちゃんの縦笛を舐め回す権利が与えられるんやで。俺、もう将来の夢を「川に笛を投げる人」にしてもええわ。


んんーっ正に絶頂!!




「名前ちゃん」


隣のクラスを覗き、可愛い可愛い名前ちゃんを呼ぶ。他の女の子は俺が行くと全員注目してくれるんやけど、名前ちゃんは気付いてへんのか大体俺をガン無視や。興奮するで。


「あれ?白石くん、どうしたの?」


やっと気付いて貰えて嬉しい。
俺は緩む顔の筋肉に葛を入れた。


「実は縦笛忘れてしもて…良かったら貸してくれへんかな?」
「あ、ごめんね白石くん…縦笛、光くんに貸してるの。


なんやて


「光くん、6限目が音楽らしいんだけど、縦笛忘れて困ってたから朝貸してて…」


なんて優しい子や。それも名前ちゃんの魅力のひとつなんやなぁ…なんて諦める俺やないわ。
光め…今日の部活で聖書の名を嫌と言うほどとことん知らしめたる。

…後輩虐めとちゃうで。
これは正当な裁きや。


「ほな、光から(奪って)借りてええかな?」
「駄目っスわ」


な…!!俺の背後には、いつの間にか縦笛を吹きながらどや顔をする光がおった。こいつ…!!

選曲が翼を下さいなのは何故や。俺の心境は正に「縦笛を下さい」や。


「白石部長が昨日ピーヒョロロー川に縦笛ブン投げて『絶頂!!』とか言うてたかプピーら、もしやと思うて名前先輩をペポペポー守ったんスわ」
「お前も名前の縦笛堪能しとるやないか!」


アカン、アカンで。俺の名前の縦笛が光によって汚されてしもた。俺がしたかったのに。



「光…それは宣戦布告やな」
「そんなんしなくても、名前先輩は俺のモンですけどね」
「アホ抜かせ」








縦笛を取り戻す戦いが
  いま、始まる―――!!







END.

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この変態二人が火花を散らしている中、名前ちゃんは
「このから揚げ美味しいなぁ」と遅めの昼ご飯に夢中です。

のんびりマイペースな天然ヒロインを目指しました。
 
 


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