「俺の誕生日を知っていますか」
Lupinusは人喰い狼の夢を見るか
「11月9日でしょう」
俺の彼女は賢い。俺の気難しい(自分で言うのもなんですが)考えや性格を把握した上で、何事も俺に合わせてくれる。読み取ってくれる。
だから、こんな夏の暑い日に先の誕生日の質問をした意味を、彼女は今必死に考えている筈だ。
「では、11月9日の誕生花を知っていますか」
誕生花…その言葉が想定外だったようで、彼女は形の良い眉をひそめた。
「知らない」
「ルピナスです。花言葉は、あなたは私の安らぎ、空想、母性愛、貪欲」
暑い暑い夏の日。
俺は赤子のように彼女の胸に顔を埋めながら囁いた。
「貪欲なんです。俺は」
「知ってる」
彼女の匂い、感触、俺の頬を撫でる柔らかい掌。まるで自白剤を投与されたように俺は饒舌になる。
「俺以外の男と話さないで下さい」
「無理だよ、永四郎」
そう。彼女は気付いている。
誰よりも頭の回転が速いから。
俺が嫉妬して拗ねている事に。
「こんな所でこんな風に甘える姿を見たら、部員は何て言うかな?」
「言わせておけばいい」
部員…彼女の中にそんな認識があるだけで胸の中に嫉妬が渦巻く。
嗚呼、俺はなんて
「我が儘だと自分でも思います。」
彼女の手が顎をゆるゆると撫でる。くすぐったくて、目線を上げた。
「可愛い、永四郎」
彼女の赤い舌が見える。
それは、彼女自身の下唇を厭らしく濡らす。
弧を描く瞳はぎらぎらと光り、私は捕食する側だと強く訴えていた。
「キスしてあげるよ。だから機嫌直して」
彼女が捕食者ならば
こうやって彼女の言う通り、高揚に染まる瞳を開けて口付けを待つ俺は
「名前、愛してます」
唇と唇が触れるほんの一瞬前
捕食者が牙を剥いて笑った。
END.
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ほんとは立場逆だったんだ。
ちなみにルピナスはラテン語の
「lupus(オオカミ)」が語源だそうです。